3,5,3'-トリヨードサイロニンの過剰摂取による甲状腺中毒症の犬

 3,5,3'-トリヨードサイロニンの過剰摂取による甲状腺中毒症の犬の報告によると、著者らの知る限りでは供給源は同定されなかったが外因性T3によって誘発された犬における甲状腺中毒症の最初の報告で、臨床症状と甲状腺機能検査との間に矛盾がある場合T4およびfree T4に加えT3およびTSH濃度を測定するのが重要であるとのことでした。

 猫とは違い甲状腺機能亢進症は犬ではまれで、ほとんどは甲状腺腫瘍による甲状腺ホルモンの分泌過剰であることが多く、甲状腺腫瘍は通常頸部のしこりとして触診できます。甲状腺機能亢進症はまれに未加工の甲状腺組織が含まれている食事の摂取により起こることもあります。症状としては多渇、多尿、多食、過剰興奮および体重減少などがみられます。

 今回の症例は7歳の去勢雄で、食欲があるにも関わらず12週間のあいだ活動過多、攻撃行動および進行性の体重減少がみられたため病院を受診したそうです。身体検査では頻脈が唯一の異常所見で、血清T3およびfree T3濃度は顕著に増加し、T4およびfree T4濃度は基準値範囲内であるかまたは減少していたそうです。甲状腺シンチグラフィーにより異所性甲状腺組織が認められなかったため外因性T3によって誘発された甲状腺中毒症と診断したそうです。治療は犬を24時間入院させ、食事を変更したところ臨床症状が急速に解消されT3およびfree T3血清濃度が基準範囲内に戻ったため、犬の家庭内での外因性T3源を疑ったそうです。その犬が食べていた市販の牛肉が原料のウェットフードの分析で推奨値を超えた高濃度のT3(1.39μg/g)およびヨウ素(82.44μg/g)が含まれているのが確認され、その他のT3の供給源は特定されなかったそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

June 15, 2017, Vol. 250, No. 12, Pages 1427-1431

高乳酸血症の有無による集中治療室に入院した低血圧の猫の生存率の分析39例

 高乳酸血症の有無による集中治療室に入院した低血圧の猫の生存率の分析39例についての報告によると、低血圧で乳酸値が正常な猫は高乳酸血症の猫より生存し退院できる確率が有意に高く、血中乳酸濃度は他の臨床所見や検査と併せて検討すると有用な予後指標となり得るとのことでした。

 臨床的に血清乳酸の測定は重篤なヒトの患者に対する組織の灌流および酸素供給の評価、リスクの階層化ツール、予後判定および治療の反応の判定に有用であるとされてますが、最近の研究では獣医学においても同様の応用ができることが示唆されています。高乳酸血症は低循環および低酸素状態において一般的で、敗血症、腫瘍、薬物、ミトコンドリア機能障害および先天性代謝異常とも関連するとされています。基準範囲は犬で0.3~2.5mmol/L、猫で0.5~2.0mmol/L、動脈血、静脈血で臨床的な相違はなく、直近の運動、ストレス、発作、興奮、食後および採血に時間がかかった場合2.5~10mmol/L乳酸濃度が上昇するそうです。また28日齢未満の子犬は静脈乳酸濃度が有意に高いそうです。

 今回の報告では、2005年1月から2011年12月の間に大学病院の集中治療室に入院した39例の猫についてドップラー法で動脈血圧が90mmHg以下のときの前後1時間以内の血中乳酸濃度について検討し、それぞれの猫について退院までの生存率、病気の重症度、入院期間、年齢、体重、PCVの評価をレビューし、高乳酸血症(2.5mmol/L以上)があるかないかで比較したそうです。結果は39例中6例(15%)の猫が生存退院し、12例(31%)は正常の乳酸値(<2.5mmol/L)、27例(69%)が高乳酸値で、正常の乳酸値の猫の方が血圧が高く生存率も高かったそうです。5日目のカプランマイヤー生存曲線の生存率では正常の乳酸値の場合は57%だったのに対し高乳酸値の場合は17%でしたが、年齢、体重、入院期間、PCV、病気の重症度は正常の乳酸値と高乳酸値の猫の間で有意差はなかったどうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

April 15, 2017, Vol. 250, No. 8, Pages 887-893

アメリカとカナダの猫の犬糸状虫感染症の血清陽性率と危険因子および予防薬の処方実態

 アメリカとカナダの猫の犬糸状虫感染症の血清陽性率と危険因子および予防薬の処方実態についての報告によると、推定される血清陽性率は0.4%で、アメリカでは何十万匹もの猫が犬糸状虫症に感染している可能性が高く、犬糸状虫はすべてのライフステージで診断が困難で、治癒的な治療の選択肢がないため、すべての猫で予防薬を確実に投与するべきであるとのことでした。

 猫は犬糸状虫に対し感受性はありますが、犬糸状虫にとって理想的な宿主ではないためほとんどは成虫になるまで生き残ることができません。成虫がみられる場合でも典型的には1~3匹と少数であることが多く、症状としては咳、定期的な嘔吐、食欲不振または体重減少などですが、突然死がみられるケースもあります。また成虫がいなくても幼虫の感染だけで喘息やアレルギー性気管支炎のような症状の犬糸状虫随伴呼吸器疾患がみられることがあり、診断が困難になることがあります。

 今回はアメリカやカナダの動物病院やアニマルシェルターにおける34,975匹の猫すべての血液サンプルからDirofilaria immitis抗原、FeLV抗原およびFIV抗体を検査しその地域や様々な猫のグループとの間で比較したそうです。その結果アメリカの35の州で犬糸状虫抗原に対し血清陽性がみられたそうですが、カナダではみられず、全体の血清陽性率は0.4%で、アメリカの南部で陽性率が高かったそうです。外にでる猫はそうでない猫の3倍、健康でない猫は健康な猫の2.5倍の陽性率がみられ、健康な猫の陽性率は0.3%、口腔疾患のある猫は0.7%、膿瘍や咬傷のある猫は0.9%、呼吸器疾患のある猫は1.0%だったそうで、レトロウイルスと共感染があると犬糸状虫感染のリスクが増加するそうです。また予防薬が処方されていた猫は12.6%で、血清陽性率の高い地域ではより一般的だったそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

April 15, 2017, Vol. 250, No. 8, Pages 873-880

シクロホスファミドとフロセミドの経口持続投与で治療された担癌犬における無菌性出血性膀胱炎の発生率

 シクロホスファミドとフロセミドの経口持続投与で治療された担癌犬における無菌性出血性膀胱炎の発生率につての報告によると、化学療法におけるシクロホスファミドの経口持続投与と併用したフロセミドの経口投与は無菌性出血性膀胱炎の発生率が低いことが示され、フロセミドがシクロホスファミド誘発性無菌性出血性膀胱炎に対し保護効果があることが示唆されたとのことでした。

 無菌性出血性膀胱炎はシクロフォスファミド投与のよく知られた合併症で、シクロフォスファミドの不活性代謝物のアクロレインによる尿路上皮刺激によって引き起こされます。発生のリスクはシクロフォスファミド投与のプロトコールや累積投与量に依存し、フロセミドまたはメスナの同時投与はこのリスクを有意に減少させるとされています。もし無菌性出血性膀胱炎がみられた場合はシクロフォスファミドの投与を無期限に中止します。中止後一般的には徴候は緩和されていきますが、重症例では出血がみられなくなるまで数週間から数か月かかることがあります。

 今回の報告では2つの施設で2009年1月から2015年12月までの間にシクロフォスファミドの経口持続投与にフロセミドを最低28日以上併用して治療した犬の記録について調査し、シグナルメント、腫瘍の診断、シクロフォスファミドとフロセミドの用量および併用薬についての情報を抽出して調べたそうです。シクロフォスファミドの投与量は6.5~18.6mg/㎡ 1日1回から6.3~49.2mg/㎡ 1日おきで、投与期間の中央値は272日(28~1393日の範囲)、累積投与量の中央値は2898mg/㎡(224~14725mg/㎡の範囲)、フロセミドの投与量の中央値は1.4mg/kgだったそうです。そのうち55例中2例(3.6%)で無菌性出血性膀胱炎が確認または疑われたとのことでした。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

December 15, 2016, Vol. 249, No. 12, Pages 1408-1414

びらん性免疫介在性多発性関節炎の犬における臨床的特徴および病理学的関節の変化

 びらん性免疫介在性多発性関節炎の犬における臨床的特徴および病理学的関節の変化についての報告によると、びらん性免疫介在性多発性関節炎は中年齢の小型犬の手根関節に最も一般的にみられ、さらなる遺伝子分析およびリンパ球サブセットの解析が必要とされるとのことでした。

 免疫介在性多発性関節炎は炎症性関節疾患として一般的です。周期的な元気消失(発熱)、食欲不振、跛行および知覚過敏がみられます。免疫介在性多発性関節炎は骨および軟骨の溶解および増殖の変化を評価することに基づいて、びらん性または非びらん性のいずれかに分類されます。びらん性は進行性の関節周囲表面の骨溶解と増殖が特徴です。初期は軽度の軟部組織の腫脹と関節滲出液だけがX線検査でみられ、進行するにつれて軟骨膜と軟骨下骨の不透明度の減少、関節腔の狭小化および骨増殖がみられます。犬では敗血症性、リウマチ性関節炎はびらん性に含まれますが、X線検査での変化は特異的ではないのでこれらを鑑別するには関節液の分析や培養を行うことが重要です。非びらん性の炎症は滑膜や軟骨の接合面の顕著もしくは永久的な関節破壊なしに関節痛および軟部組織の腫脹を引き起こします。これはIII型過敏症反応であり、慢性抗原刺激に向けられた抗体産生に起因します。しかしこの抗原刺激の原因を特定することはしばしば困難で、特発性多発性関節炎と呼ばれます。原因としては腫瘍(特に血液腫瘍)、慢性感染症(深部真菌症、脊椎炎または心内膜炎など)、原発性免疫疾患(全身性エリテマトーデス)、特定の薬剤またはワクチンなどがあります。

 今回はびらん性免疫介在性多発性関節炎の犬13例と非びらん性免疫介在性多発性関節炎の犬66例とを比較したそうですが、びらん性免疫介在性多発性関節炎を有する犬の平均年齢は7.1±2.4歳、体重は8.3±3.4kgで、13例すべてで手根関節に病変がみられたそうです。また関節液のリンパ球数が非びらん性の犬よりびらん性の犬の方が有意に多かったそうです。すべての犬がレフルノミド(9例)、プレドニゾン(3例)、プレドニゾン-アザチオプリン(1例)による免疫抑制治療を受けたそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

November 15, 2016, Vol. 249, No. 10, Pages 1156-1164