イベルメクチン中毒

 イベルメクチン中毒のボーダーコリーの治療に静注用脂肪乳剤を用いた症例の報告によると、静注用脂肪乳剤を使用することがイベルメクチン中毒の治療に有効だったとのことでした。
 イベルメクチンは、フィラリア症の予防薬としてよく用いられます。正常な動物の血液脳関門はイベルメクチンが中枢神経系組織に入るのを阻止しています。しかしコリー、シェットランド・シープドッグ、オーストラリアン・シェパードなどの犬種では遺伝的にその機能が低かったり、また遺伝的に問題がなくてもイベルメクチンを大量に投与した場合、イベルメクチンが中枢神経系内に流入し、運動失調、筋の震戦、四肢の不全麻痺などの神経症状が現れます。治療法は、とくに解毒剤などはなく、支持療法のみとなります。
 正確な治療のメカニズムは不明であるものの、人間では脂溶性薬物中毒において静注用脂肪乳剤の使用が有効とされており、脂肪乳剤が脂溶性薬物を取り囲み、その効果を弱めると考えられています。
 ちなみに静注用脂肪乳剤は、通常高カロリー輸液のときに用いられます。また、フィラリア症予防として用いられるイベルメクチンの薬用量では、中毒が起きることはまずありません。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
November 15, 2011, Vol. 239, No. 10, Pages 1328-1333