犬における血漿中のNT-proBNP濃度

 心疾患をもっているまたはもっていない犬における血漿中のNT-proBNP(N-terminal pro-B-type natriuretic peptide)濃度の評価についての報告によると、900 pmol/L が犬の血漿中NT-proBNP濃度の基準値の上限であるとのことでした。

 NT-proBNPとは、心臓から分泌されるホルモンであるBNPが、血液中に放出されBNPとNT-proBNPに分解されることにより出現します。心不全などによって心筋細胞に障害が起きると、NT-proBNPがより多く血液中に現れるため、心不全の重症度に応じて血液中の濃度が上昇します。また、NT-proBNPはBNPより血液中に長く存在するため測定に適しています。

 心臓の検査といえば聴診、心電図、X線、超音波などがありますが、NT-proBNP濃度の測定は、無症状でも現在心疾患があるかないかを識別する場合や、心疾患の重症度の診断に役立ちそうです。ただ、まれに心疾患とは関係なくNT-proBNP濃度が高値となることもあるようです。また、猫においても基準値は異なりますが、NT-proBNP濃度測定は有効とされています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

January 15, 2012, Vol. 240, No. 2, Pages 171-180

膀胱切開術での膀胱縫合

 犬と猫の膀胱切開術での膀胱縫合において一層性並置縫合と二層性内反縫合とでの短期的な合併症率の比較についての報告によると、一層性並置縫合でも安全で、二層性内反縫合の方が明らかに優れている点はないとのことでした。

 膀胱切開術は膀胱結石の除去、膀胱内腫瘤の確認や切除などの目的で実施されます。膀胱を切開した後は、中の尿が漏れないように縫合をする必要があります。

 縫合は一層より二層の方が強度が増しますが、大きな異常がなければ一層でも十分なようです。膀胱の切開部位は背側でも腹側でも問題ありませんが、腹側の方が切開時尿道を巻き込む可能性は低くなります。また、以前は膀胱内に縫合糸が貫通すると結石の原因になると考えられていたため、縫合糸が膀胱内に貫通しないことが重要とされていましたが、吸収性の単繊維の縫合糸を使用すれば問題ないとされています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

January 1, 2012, Vol. 240, No. 1, Pages 65-68

人工鼻と体温維持

 イソフルラン麻酔下で整形外科手術を受けた犬の熱損失における人工鼻の効果の報告によると、人工鼻は体温維持の補助にはならなかったとのことでした。
 全身麻酔を行う場合、気管内に気管チューブを挿管し、そこへガスの麻酔を流して麻酔を維持することが多いのですが、その時のガスは通常加湿や加温はされていません。そのようなとき、麻酔の呼吸回路に人工鼻をつけることで、鼻腔によって本来おこなわれる、吸った空気に湿度と温度を与え気管支や肺を守るという機能の代わりをし、保湿保温効果が得られるとされています。仕組みは比較的単純で、吐いた空気の熱と水蒸気がフィルターに蓄えられ、それを吸う空気に取り込ませるというものです。
 今回の報告では、人工鼻は体温維持にはあまり効果がなかったようですが、気道内が乾燥すると呼吸器感染を起こす確率が高くなりますし、バクテリアフィルター機能付き人工鼻というものもあるので、人工鼻を使うことが全く意味が無いというわけではないと思います。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
December 15, 2011, Vol. 239, No. 12, Pages 1561-1565

犬の腎移植

 26頭の犬の腎移植後の結果についての報告によると、生存期間の中央値は24日で、15日生存する割合は50%で、100日生存する割合は36%とのことでした。また死因として、血栓塞栓症に起因するものが8頭、感染に起因するものが6頭、拒絶反応に起因するものが1頭で、手術時の年齢が高齢な犬の方が死亡する可能性が高いそうです。
 腎臓は代謝性老廃物の排泄、水や酸、塩基、電解質の調節、骨髄での赤血球の産生を働きかける内分泌作用などがあり、腎機能が低下した場合、代謝性老廃物の貯留、多飲多尿、代謝性アシドーシス、再生不良性貧血などが引き起こされます。食事管理や投薬で腎臓の負担を軽減することはできますが、根本的な治療となると腎移植になります。しかし、犬や猫では一般的ではありません。しかも犬の場合は、もし手術を行ったとしても生存期間は短いようです。
 猫でも腎移植は可能で、術後生存率は70~85%、なかには数年生存するものもいるといわれています。

参考文献
Veterinary Surgery
Volume 41, Issue 3, pages 316-327, April 2012

猫の消化器型リンパ腫の外科手術

 猫の消化器型リンパ腫で消化管全層に対して外科手術を行った後の周術期合併症についての報告によると、すべての症例で、腸管の生検または吻合部位からの術後の腸内容の漏出はみられず、腸管の裂開のリスクは高いとはいえないとのことでした。
 リンパ腫を含む腸管にみられる腫瘍の場合、治療として腸切除を行うとこがありますが、見ただけでは腫瘍がどこまで浸潤しているか判断できないことも多く、また腫瘍を含んだ組織部分で縫合すると、裂開の危険性があります。
 猫の消化器型リンパ腫は、高齢の猫でみられることが多く、消化管が肥厚し腫瘤を形成するものや、びまん性(広範囲に広がっている状態)肥厚がみられる場合もあり、症状も非特異的で、慢性の嘔吐や下痢、体重減少、食欲低下などです。グレードやタイプにもよりますが、積極的に外科的切除を行うことも治療の選択肢に考えられそうです。

参考文献
Veterinary Surgery
Volume 40, Issue 7, pages 849-852, October 2011

犬の心肺蘇生

 犬の心肺停止の治療のためのエピネフリンとバソプレシンの比較についての報告によると、エピネフリンよりバソプレシンを使用しする利点はみられなかったとのことでした。
 エピネフリンやバソプレシンなどの薬剤は、血管を収縮させて血圧を上げるなどの効果があり、心肺停止などの救急時によく使用されます。人間ではエピネフリンよりバソプレシンを使用した方が救命率が高いそうなのですが、犬の場合はいまのところ違いはみられないようです。
 もちろん、心肺蘇生には薬物の使用も重要ですが、まずは気道の確保、換気、循環補助が第一に考えられます。

参考文献
Journal of Veterinary Internal Medicine
Volume 25, Issue 6, pages 1334-1340, November-December 2011

犬の脾臓の腫瘍

 犬の良性と悪性の脾臓の腫瘤における腫瘤部分と脾臓の体積比と、体重における脾臓の重さの割合の報告によると、良性のものの方が脾臓の腫瘤部分が大きく、体重に対する割合も大きかったとのことでした。
 つまり簡単に言えば、犬の脾臓の腫瘍は、大きいものの方が良性の割合が多いということです。一般的には悪性腫瘍の方が急速に増殖(大きくなる)することが多いのですが、脾臓の場合は必ずそうともいえないようです。
 犬の脾臓の腫瘍で最も多くみられるのは血管肉腫で、これは悪性の腫瘍です。しかし、なかには血腫や過形成といった良性の腫瘍の場合もあり、病理組織検査を行わずこれらを鑑別するのは困難です。犬の脾臓の腫瘍の場合、大きいからといって予後が悪いとはいえないようです。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
November 15, 2011, Vol. 239, No. 10, Pages 1325-1327

イベルメクチン中毒

 イベルメクチン中毒のボーダーコリーの治療に静注用脂肪乳剤を用いた症例の報告によると、静注用脂肪乳剤を使用することがイベルメクチン中毒の治療に有効だったとのことでした。
 イベルメクチンは、フィラリア症の予防薬としてよく用いられます。正常な動物の血液脳関門はイベルメクチンが中枢神経系組織に入るのを阻止しています。しかしコリー、シェットランド・シープドッグ、オーストラリアン・シェパードなどの犬種では遺伝的にその機能が低かったり、また遺伝的に問題がなくてもイベルメクチンを大量に投与した場合、イベルメクチンが中枢神経系内に流入し、運動失調、筋の震戦、四肢の不全麻痺などの神経症状が現れます。治療法は、とくに解毒剤などはなく、支持療法のみとなります。
 正確な治療のメカニズムは不明であるものの、人間では脂溶性薬物中毒において静注用脂肪乳剤の使用が有効とされており、脂肪乳剤が脂溶性薬物を取り囲み、その効果を弱めると考えられています。
 ちなみに静注用脂肪乳剤は、通常高カロリー輸液のときに用いられます。また、フィラリア症予防として用いられるイベルメクチンの薬用量では、中毒が起きることはまずありません。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
November 15, 2011, Vol. 239, No. 10, Pages 1328-1333