異なる臨床現場における健康な犬の血圧、心拍数および尿中カテコールアミン

 異なる臨床現場における健康な犬の血圧、心拍数および尿中カテコールアミンについての報告によると、血圧や心拍数は品種だけでなく検査を行う環境にも関係があり、尿中カテコールアミンは品種により違いがみられたとのことでした。

 カテコールアミンはドーパミン、ノルアドレナリンおよびアドレナリンなどの総称で、脳内、交感神経および副腎髄質に存在しストレスの指標とされています。今回の報告では、ラブラドールレトリバー、キャバリア・キングチャールズ・スパニエル、ダックスフンドの3品種で行ったそうなのですが、飼い主がいるときよりも獣医師一人のときのほうが血圧と心拍数は高くなったそうです。またすべての犬で診察の前より後のほうが尿中カテコールアミンが高くなったそうなのですが、ラブラドールレトリバーは他の犬種より低かったそうです。

 人でも病院で血圧を測定すると普段より高くなったりすることはありますが、犬でも同じようなことが起こるようです。ストレスを具体的に数値化するのは困難ですが、犬も病院に行くことにより何らかのストレスがかかる場合があるかもしれません。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 6, pages 1300–1308, November/December 2012

 

 

骨関節炎により跛行がみられる犬に対する治療提供者のプラセボ効果

 骨関節炎により跛行がみられる犬に対する治療提供者のプラセボ効果についての報告によると、プラセボ効果が犬の飼い主や獣医師が、骨関節炎の治療に対する犬の反応を評価する際によくみられたとのことでした。具体的には、治療に対し39.7%~44.8%の飼い主や獣医師が跛行が改善したと感じたのに対し、歩行解析装置による評価ではほとんど変化がなかったそうです。

 跛行とは正常な歩行ができない状態で、何らかの痛みが存在することが多いです。さわって明らかに痛みを訴えたり、筋肉量の減少、四肢の非対称性、関節の腫脹などがみられることもありますが、とくに大きな症状がみられないこともあります。しかも犬はしゃべれませんので、跛行や痛みに対する評価は主観的になりがちです。フォースプレートなどの歩行解析装置は高価なので一般的な検査方法ではありませんが、客観的に跛行を評価するには良い方法かもしれません。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

November 15, 2012, Vol. 241, No. 10, Pages 1314-1319

 

 

犬の催吐

 犬の催吐を目的としたアポモルヒネと3%過酸化水素溶液の使用の効果と副作用についての報告によると、どちらも効果的に嘔吐を誘発し、副作用は軽度で自己限定的だったとのことでした。アポモルヒネと3%過酸化水素溶液が嘔吐を誘発させた割合はそれぞれ94%と90%で、嘔吐するまでの平均時間は18.6分と14.5分で、平均持続時間は27分と42分とのことでした。

 口から入った有害物質による中毒症状は、主にその有毒成分が消化管から吸収されることで異常が発現します。摂取した有害物質がまだ胃に残っている場合、嘔吐を促すこと、つまり催吐は毒素の吸収を防ぐ処置としと良い方法です。しかし、口腔粘膜を刺激するような腐食性の毒物や、昏睡状態などで誤嚥の可能性がある場合は催吐処置は控えたほうがよいとされています。

 ちなみに、アポモルヒネは古くからある薬ですが、最近では人でパーキンソン病の治療薬の一つとして使用されているようです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

November 1, 2012, Vol. 241, No. 9, Pages 1179-1184

バクロフェン中毒

 犬と猫のバクロフェン中毒についての報告によると、昏睡や痙攣発作などの神経症状が最も一般的にみられ、生存した犬のバクロフェンの摂取量の中央値は4.2mg/kgで、死亡した犬での中央値は14mg/kgとのことでした。

 バクロフェンは、人では筋肉の緊張からくる痙縮をやわらげる目的で使用されるそうですが、犬では尿閉の時に尿道抵抗を低下させるための筋弛緩を目的に使用されることがあります。通常1回に内服する用量は1~2mg/kgですが、過剰摂取した場合の症状は摂取後15分から7時間の間にみられ、数時間から数日持続するとされています。治療のため腸内を空にさせるために下剤を使用することもありますが、マグネシウムを含む塩類下剤を使用すると神経症状が悪化するそうです。

 また、バクロフェンは猫での使用は推奨されていません。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

October 15, 2012, Vol. 241, No. 8, Pages 1059-1064

 

犬の大動脈血栓症

 犬の大動脈血栓症についての報告によると、犬では稀な疾患であり、入院した犬のわずか0.0005パーセントだったとのことでした。

 大動脈血栓症は、猫では心筋疾患に関連してみられることが多いのですが、犬では腫瘍、敗血症、クッシング症候群などに続発して起こることが多いとされています。症状としては、猫では血栓が大動脈腸骨動脈で塞栓を生じやすく、それにより股動脈拍動の減弱あるいは消失、後肢の肉球のチアノーゼ、不全対麻痺などがみられますが、犬では股動脈拍動の減弱は19%、消失は55%の症例でしかみられなかったそうです。また、2年以上生存した犬もいますが、一般的には予後は悪いそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

October 1, 2012, Vol. 241, No. 7, Pages 910-915

放射線療法時のプロポフォールの使用

 放射線療法を受けている担癌犬で、麻酔の導入のためにプロポフォールを使用した場合の評価についての報告によると、赤血球数の減少がみられたものの、プロポフォールは放射線治療の犬の麻酔の導入のための安全な選択であるとのことでした。

 放射線療法は、犬や猫でも腫瘍の治療に用いられますが、行える施設は限られており、大学病院などで行うのが一般的です。治療自体は数分で終了し、痛みの刺激もないのですが、放射線の照射中に動いてしまうとよくないので、麻酔をかけて行うことがほとんどです。治療方法にもよりますが、毎日続けて放射線療法を行うこともあり、そのようなときでも麻酔による悪影響はあまりないようです。

 プロポフォールは、麻酔の導入および短時間全身麻酔に用いられる静注用麻酔薬で、人でも使用されていますが、犬や猫にも使用されます。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

October 1, 2012, Vol. 241, No. 7, Pages 898-903

遺伝性てんかんをもつベルジアン・シェパードの生存率

 遺伝性てんかんをもつベルジアン・シェパードの生存率の経年的研究の報告によると、全体的に良性の経過で、寿命がてんかんによって明らかに影響を受けることはないとのことでした。

 ベルジアン・シェパードはベルギー原産の牧羊犬種で、日本では多くみられませんが、グローネンダール、タービュレン、マリノア、ラケノアなどの種類があります。そしてベルジアン・シェパードは遺伝性のてんかんをもっているとされており、有病率は9.5%ともいわれています。今回の報告では、てんかんをもっているベルジアン・シェパードの死因の70%はてんかんに関連したものだったそうですが、寿命の短縮はみられなかったとのことでした。

 てんかんについては、正確な発生機序は不明で、一般的に2歳未満で発作を生じた場合は難治性となる可能性が高いとされています。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 5, pages 1115–1120, September–October 2012

腎性高窒素血症の犬における肺の異常

 腎性高窒素血症の犬における肺の異常についての報告によると、肺疾患を示す異常が高窒素血症の犬で一般的にみられたが、臨床徴候やレントゲン上でみられた肺の機能障害の存在は予後には関係しないとのことでした。

 腎機能障害をもつ人では、気道疾患に伴う臨床徴候がみられることがあるそうなのですが、犬でも同じことがいえるようです。具体的には高窒素血症のみられない犬に比べて、肺疾患の臨床徴候や肺胞の石灰化が急性腎障害の場合で多くみられ、レントゲン上で肺の肺胞パターンが急性と慢性の腎障害の場合に多くみられたそうです。

 急性腎障害の場合の臨床徴候は、嗜眠、沈うつ、食欲不振、嘔吐など非特異的なものが多いですが、呼吸器にも症状がでることもあるようです。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 5, pages 1099–1106, September–October 2012

 

 

先天性および後天性門脈体循環シャント

 若い犬における先天性と後天性門脈体循環シャントの臨床および臨床病理学的異常の報告によると、先天性か後天性かを症状や臨床病理学的所見だけで区別するのは困難だが、後天性の場合のほうが腹水がみられることが多いとのことでした。

 門脈体循環シャントは、肝臓へと続く門脈と、全身の静脈の間をつなぐバイパス血管が存在する疾患で、本来は肝臓で解毒される腸管由来毒素が十分解毒されないまま体循環に流れ込み、それにより高アンモニア血症や肝性脳症がひきおこされ、突発的な虚弱、運動失調、間歇性食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少、成長不良などの臨床徴候がみられます。

 先天性の場合は先天的な血管の奇形によるもので、外科手術で改善されることが多いのですが、後天性の場合は慢性肝疾患が原因であることが多く、外科的治療はせずに内科的治療を行うことが多く、それぞれの病態に応じた治療が必要とされます。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

September 15, 2012, Vol. 241, No. 6, Pages 760-765

犬の胃拡張-胃捻転症候群における予後マーカー

 犬の胃拡張-胃捻転症候群における予後マーカーとしての血清犬ペプシノーゲン-A、犬膵リパーゼおよびC反応性蛋白についての報告によると、術前の犬ペプシノーゲン-Aは胃壁病変の重症度と関連があったが、予後マーカーとしては中程度であり、犬膵リパーゼ免疫反応物質とC反応性蛋白は一般に増加がみられたとのことでした。

 ペプシノーゲンは胃の主細胞から分泌される酵素前駆体で、ヒトではその血清中濃度は胃粘膜の形態的および機能的状態を反映しているとされ、胃がん検診などに使われています。犬でも胃拡張-胃捻転症候群の様に胃粘膜の細胞が損傷されるような状態ではペプシノーゲンの増加がみられる様ですが、それが予後良好か不良かの判定材料にするには弱いようです。

 犬膵リパーゼは、膵炎の指標になるとされており、リパーゼ自体は膵臓疾患以外の要因でも影響を受けるのですが、膵臓由来のリパーゼのみを測定することで膵炎に対して高い感度および特異性があるとされています。C反応性蛋白は、さまざまな炎症で非特異的に血中に現れる蛋白質で、炎症の由来を特定することはできませんが炎症マーカーとして利用されています。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 4, pages 920–928, July-August 2012

 

犬のリンパ腫における経口投与イダルビシン

 犬のリンパ腫における経口投与イダルビシンの最大耐量と用量制限毒性を決定するための第I相試験についての報告によると、15kg以上の犬の最大耐量は22mg/㎡で、用量制限毒性として好中球減少症および血小板減少症がみられ、イダルビシンの高い血漿中濃度と相関しており、使用にあたり耐用性で抗腫瘍活性を有するとのことでした。

 リンパ腫は、リンパ節や肝臓、脾臓などの内臓に原発するリンパ増殖性の腫瘍で、一般的に中年齢から高齢の犬でみられ、ゴールデン・レトリーバー、ジャーマン・シェパード、ボクサー、プードル、バセット・ハウンド、セント・バーナードに好発するとされています。またリンパ腫は、抗癌剤を使用する化学療法によく反応する腫瘍とされていますが、どのような化学療法であっても完治することはほとんどなく、治療の過程で薬剤耐性がみられるようになってきます。ですから、単剤による化学療法よりも多剤併用の化学療法の方が薬剤耐性の発現を遅らせることができ、寛解期間も長くなるとされています。つまり化学療法の選択肢がいろいろあった方が寛解期間をさらに長くすることができるかもしれません。

 ちなみに第I相試験は主に安全性について検討する試験ですので、薬効や毒性についてはっきりするにはまだ時間がかかるでしょう。またイダルビシンは人では急性白血病の治療薬として使用されているようですが、経口薬は日本では入手できません。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 3, pages 608–613, May-June 2012

 

犬の肥満細胞腫の治療におけるパクリタキセルの有効性と安全性

 犬の切除不能なグレード2または3の肥満細胞腫の治療におけるパクリタキセルの有効性と安全性につての無作為試験の報告によると、ロムスチンよりも働きや安全性が優れているとのことでした。

 肥満細胞腫は体のほとんどの部位に発生する可能性がありますが、犬では皮膚に発生することが多く、犬の皮膚腫瘍の中の5分の1を占めるともいわれています。治療としては外科的切除、化学療法、放射線療法などがあります。パクリタキセルやロムスチンといった抗癌剤を使用する化学療法は、全身播種、外科的に切除不可能または不完全切除、放射線療法が不可能な場合に実施されます。なかでも新しい治療として分子標的薬がありますが、適応になるc-kit遺伝子に変異がみられる症例は全体の25~30%といわれていますので、まだc-kit遺伝子に依存しない抗癌剤が必要とされています。今回の結果ではロムスチンよりパクリタキセルの方が奏効率が良かったとのことなので、今後治療の選択肢が増えるかもしれません。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 3, pages 598–607, May-June 2012

 

猫の肥大型心筋症の品種による特徴の違い

 5品種(ペルシャ、ドメスティックショートヘア、スフィンクス、メインクーン、シャルトリュー)の猫の肥大型心筋症の心エコーと臨床学的特徴の比較についての報告によると、いくつかの品種に品種依存性の特徴がみられたとのことでした。具体的には、メインクーンとスフィンクスは心筋症と診断された年齢が若かった(年齢の中央値はそれぞれ2.5歳と3.5歳)、ペルシャは左室流出路障害がみられることが多い、15歳以上生存したのはドメスティックショートヘア、ペルシャ、シャルトリューの3品種、突然死がみられたのはドメスティックショートヘア、メインクーン、スフィンクスの3品種とのことでした。

 猫の肥大型心筋症は左心室の肥大および肥厚が特徴で、遺伝性があるとされています。症状としては、うっ血性心不全の場合にみられる呼吸促迫や咳といった症状がでることもありますが、見た目は健康で無症状の場合もあります。心雑音が聴取されたときに疑われることが多いですが、心臓に異常がない場合もあるのでエコー検査や臨床所見などと考慮して診断する必要があります。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 3, pages 532–541, May-June 2012

 

猫の閉塞性特発性下部尿路疾患の治療におけるリドカインおよび重炭酸ナトリウムの膀胱内使用

 猫の閉塞性特発性下部尿路疾患の治療におけるリドカインおよび重炭酸ナトリウムの膀胱内使用についての報告によると、再発率と臨床症状の重症度を減少させる明らかな有益な効果はなかったとのことでした。

 猫の特発性下部尿路疾患は、人の間質性膀胱炎に類似しているといわれており、どちらも詳しい原因は不明とされています。猫では血尿、排尿困難、頻尿などの症状がみられ、5~7日で自然治癒することもありますが、なかには何週間も続いたり、再発を繰り返したりすることもあります。治療としては、有効な方法は特になく、細菌性膀胱炎でなければ抗菌剤の投与も必要ないとされています。人の場合治療として、リドカインおよび重炭酸ナトリウムの膀胱内注入が有効な場合があるとされていますが、猫ではそうではないようです。

 予防としては、ストレスの軽減、缶詰食へ切り替えて飲水量を増やし、尿量を増加させるなどが推奨されています。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 3, pages 526–531, May-June 2012

 

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犬における抗リン脂質抗体と血栓症

 免疫介在性溶血性貧血、特発性血栓症および副腎皮質機能亢進症の犬における抗リン脂質抗体についての報告によると、いずれの疾患も血栓症の発症における抗リン脂質抗体の存在は強い役割を果たしていないとのことでした。

 人では抗リン脂質抗体の存在は血栓症の原因とされ、抗リン脂質抗体症候群という自己免疫病のひとつとされています。健康な犬では抗リン脂質抗体の存在は一般的ではありませんが、今回の報告では抗リン脂質抗体の存在は血栓症のリスク増加の要因とはならなかったそうです。

 犬の免疫介在性溶血性貧血などの疾患における血栓形成の病態生理はよくわかっていませんが、抗リン脂質抗体はあまり関係がないようです。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 3, pages 614–623, May-June 2012

 

 

ドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富な魚油を強化した食事

 8から52週齢のあいだに健康な仔犬にドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富な魚油を強化した食事を与えたときの認識学習、記憶、精神運動、免疫、網膜機能についての評価の報告によると、離乳後の成長期の犬においてDHAを豊富に含んだ魚油を強化した食事は認識学習、記憶、精神運動、免疫、網膜機能を改善させるとのことでした。具体的には学習能力がよくなったり、狂犬病ワクチン接種後の抗体価が高くなったなどの変化がみられたそうです。

 ただし、魚油由来のDHAには、他にもビタミンE、タウリン、コリン、L-カルニチンなども高濃度で含まれているそうなので、DHAだけでいろいろな改善がみられたかどうかは不明なようです。

 DHAは脳の主要な構成要素であり、俗に脳の発達に良いともいわれています。DHAは犬の母乳中にも含まれていますが、離乳後も摂取を続けることで何かしらのよい効果がでるようです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

September 1, 2012, Vol. 241, No. 5, Pages 583-594

胃拡張-胃捻転症候群の危険因子としての脾臓摘出

 胃拡張-胃捻転症候群の危険因子としての脾臓摘出の評価についての報告によると、脾臓摘出は胃拡張-胃捻転症候群のリスク要因にはならないとのことでした。また、脾臓摘出を行った犬の中では、去勢していない雄は、去勢雄や避妊および未避妊雌に比べて、有意に高い胃拡張-胃捻転症候群の発症率がみられたとのことでした。

 胃拡張-胃捻転症候群の病因は明らかにされていませんが、危険因子として、加齢、やせた体格、早食い、高い場所にある食器からの摂食、1日1回の摂食、運動、食後のストレス、怖がりなどがあげられています。また、危険性の高い犬には、予防的に胃腹壁固定術を行うこともあります。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

August 15, 2012, Vol. 241, No. 4, Pages 461-466

犬の胃拡張-胃捻転症候群の危険因子

 インターネットによる犬の胃拡張-胃捻転症候群の危険因子の調査によると、食事後他の犬と遊んだり、食事に魚や卵を含むサプリメントを与えていたり、室内と室外で生活している時間が同じである犬の方が病気のリスクが低いとのことでした。

 犬の胃拡張-胃捻転症候群は救急疾患で、大型犬や胸の深い犬で発生が多く、小型犬や猫では稀です。症状としては腹部の膨満、呼吸困難やよだれがでたりします。ショック状態になることもあり、心拍数の増加や口腔粘膜の蒼白などもみられることがあります。

 いままでは運動が胃拡張-胃捻転症候群の要因の1つとも考えられていたので、食後は運動制限をしたほうがよいといわれていました。いずれにせよ、犬になるべくストレスを与えないようにすることが予防につながるということでしょうか。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

June 15, 2012, Vol. 240, No. 12, Pages 1456-1462

熱損失の麻酔回路の種類による影響

 卵巣子宮摘出術における吸入麻酔時の猫の熱損失の麻酔回路の種類による影響の報告によると、再呼吸回路と非再呼吸回路とでは、麻酔中の体温の差はみられず、どちらの麻酔回路であれ手術時間が体温に影響をあたえたとのことでした。

 麻酔回路には大きく分けて2つあり、再呼吸回路は大きい動物に、非再呼吸回路は小さい動物に向いているとされています。また麻酔中は体温が低下することが多く、それにより心拍数の低下、血圧の低下、代謝率の低下による麻酔必要量の変化がみられ、麻酔によるリスクが増加します。

 犬や猫は、ちょっとした処置でも全身麻酔が必要となるケースがよくあります。近年は比較的安全に麻酔処置を行えるようになってきていますが、やはり100%安全というわけではありません。麻酔処置前は考えられる危険因子は排除し、なるべく時間を短くするのがベストと言えるでしょう。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

June 1, 2012, Vol. 240, No. 11, Pages 1296-1299

犬の甲状腺機能低下症の生殖におよぼす影響

 雌犬の実験的に誘発させた甲状腺機能低下症の生殖におよぼす影響の報告によると、甲状腺機能低下症は仔犬の周産期死亡率の上昇と出生時の低体重の原因となるそうですが、これは可逆性で、甲状腺機能低下症の治療をおこなえば問題ないとのことでした。

 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの欠乏が起こる病気で、中型~大型犬に多くみられ、ゴールデン・レトリーバー、ドーベルマン・ピンシャー、アイリッシュ・セッター、ボクサー、ミニチュア・シュナウザー、ダックスフンド、コッカー・スパニエルで好発するとされています。猫では非常に稀です。症状も様々で、元気消沈、不活溌、体重増加、脱毛などが比較的よくみられます。

 血液検査で甲状腺ホルモンの濃度を測定することで診断されますが、多くの要因が甲状腺ホルモンに影響を及ぼすことがあり、はっきり診断できない場合もあります。治療は、甲状腺ホルモンの経口投与によりよくなることがほとんどです。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 2, pages 326-333, March-April 2012

 

猫の慢性腎不全の進行における臨床病理学的因子

 猫の慢性腎不全における高窒素血症(高BUN、高クレアチニン)の進行を予測する様々な臨床病理学的因子についての報告によると、蛋白尿、貧血、高リン血症はより進行性の腎不全であることを示し、それぞれ尿細管の蛋白負荷、低酸素症、腎石灰化の進行の因子となり得るとのことでした。

 慢性腎不全は高齢の猫で一般的にみられます。腎不全の場合、血液検査では高窒素血症が認められますが、腎機能の約75%が機能不全にならないと高窒素血症にならないともいわれています。症状としては特異的な特徴はなく、元気消失、食欲不振、多飲多尿などがみられます。

 その一方で、高窒素血症がみられても、比較的元気な状態を保てる個体もなかにはいます。今回の報告では213頭の慢性腎不全の猫を調査したそうですが、蛋白尿、貧血、高リン血症がみられる場合は腎不全の進行がはやいといえそうです。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 2, pages 275-281, March-April 2012

特発性免疫介在性血小板減少症とワクチン接種

 特発性免疫介在性血小板減少症とワクチン接種についての報告によると、特発性免疫介在性血小板減少症と診断される42日以内にワクチン接種を受けた犬と対照群との間で、有意差はなかったとのことでした。また、発症がみられた犬は大半が雑種犬で、年齢の中央値は7歳でした。

 血小板は血液に含まれる細胞成分で、止血作用をもちます。免疫介在性血小板減少症は特異的な原因はわかっておらず、動物が健康にみえるにもかかわらず血小板数が減少し、出血がとまりにくく出血傾向となり、悪化すると皮膚や粘膜に内出血がみられるようになります。好発品種はコッカー・スパニエル、プードル、オールド・イングリッシュ・シープドッグなどとされており、猫では稀な疾患です。

 ワクチン接種によって、またはストレス下におかれると発症しやすいともいわれていますが、はっきりとしたことはいえないようです。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 1, pages 142-148, January-February 2012

移行上皮癌の犬におけるビンブラスチンの効果

 膀胱の移行上皮癌の犬におけるビンブラスチンの臨床試験についての報告によると、36%の症例で部分的に改善がみられ、50%の症例で腫瘍の進行停止がみられ、14%の症例で腫瘍の進行がみられ、治療を開始してからの生存期間の中央値は147日だったとのことで、ビンブラスチンは犬の移行上皮癌に対する抗腫瘍活性を有するとのことでした。

 膀胱の腫瘍は、犬にみられる腫瘍全体からみれば割合は少ないのですが、移行上皮癌は膀胱の腫瘍で最も多くみられ、ほとんどが悪性です。老齢の犬で、また雄犬より雌犬によくみられるとされています。臨床徴候としては血尿、頻尿、排尿困難などで、炎症や結石などの他の尿路疾患と変わりがありません。治療としては外科的切除が第1選択となりますが、完全な切除は困難なことが多く、抗癌剤にもあまり反応しないとされています。

 ビンブラスチンは抗癌剤の一種で、完全に治癒させるのは無理ですが、ある程度の改善の反応はみられるようです。また、除草剤への暴露が移行上皮癌の発生リスクを増加させるといわれているので、除草剤の散布された場所への立ち入りは控えたほうがよいでしょう。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 25, Issue 6, pages 1385-1390, November-December 2011

マイクロチップとMRI検査

 MRI検査後のマイクロチップの機能についての文献によると、MRI検査はマイクロチップの機能と干渉しないとのことでした。

 MRI検査は磁気や電波を使うため、時計などの金属類、キャッシュカードやクレジットカードなどの磁気カードは故障したりすることがあります。しかし、マイクロチップのはいっている犬や猫をMRI検査しても問題はなさそうです。

 マイクロチップは、動物の皮下に埋め込むもので、専用の読み取り機を使って個体を識別する事ができ、首輪や鑑札のように取れてしまうことはありません。東京都でのマイクロチップの普及率は8%ぐらいですが、海外に犬や猫を連れて行く場合は、マイクロチップの埋め込みが義務になっている国が多いようです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

March 1, 2012, Vol. 240, No. 5, Pages 577-579