犬の副手根骨の特発性虚血性壊死

 犬の副手根骨の特発性虚血性壊死についての報告によると、レントゲン検査や組織学的所見は犬の大腿骨頭の虚血性壊死や人の虚血性手根骨壊死と類似しているが、病因は不明で、今回の症例が副手根骨の特発性虚血性壊死の初めての報告であるとのことでした。

 今回の症例は6歳の避妊雌の雑種の犬で、6週間の左前肢の跛行がみられたそうです。レントゲン検査では副手根骨の膨張と溶解がみられ、コア生検では骨壊死と診断され、副手根骨切除後の組織検査では特発性虚血性壊死と診断されたそうです。そして副手根骨の切除と手根関節の全固定術により良好な経過がみられ、治療の4年後死亡するまで、手根関節に関連する問題はみられなかったそうです。

 大腿骨頭の虚血性壊死はレッグ・ペルテス病とよばれ、若齢の小型犬にみられます。副手根骨は尺側手根骨の後面にある棒状の骨ですが、レッグ・ペルテス病と同様の病態がみられることがあるようです。


参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

December 15, 2013, Vol. 243, No. 12, Pages 1746-1750

膵炎の猫における猫膵リパーゼ免疫活性(feline pancreatic lipase immunoreactivity, fPLI)濃度と予後について

 33匹の膵炎の猫における猫膵リパーゼ免疫活性(feline pancreatic lipase immunoreactivity, fPLI)濃度と予後についての報告によると、入院時にみられる呼吸困難、高カリウム血症および血清fPLI濃度が重要な予後因子であるとのことでした。

 膵炎は膵臓の急性あるいは慢性の炎症で、トリプシンなどの消化酵素が前段階の状態で膵臓内で活性化し、膵臓組織が進行性に自己融解を引き起こします。またほとんどの膵炎では病因を確認するのは困難で、発症過程は十分に明らかにされていません。臨床徴候も多様で、無気力、食欲不振および体重減少などの非特異的なものであったり、嘔吐や腹痛がみられない場合も多くあります。臨床検査所見も正常か、非特異的であったりします。

 リパーゼ濃度は以前から膵臓の炎症の指標とされていましたが、膵臓以外の部位にも由来し、膵臓疾患以外でも上昇がみられたり、また猫の膵炎ではわずかな上昇かもしくは全く上昇がみられなかったりするので有用ではありませんでした。しかしfPLI検査は膵炎に対して信頼性が高い診断的試験であり、また現在よくつかわれているSpec fPL(猫膵特異的リパーゼ)検査ときわめてよく相関があるとされています。


参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

December 15, 2013, Vol. 243, No. 12, Pages 1713-1718

胸腺腫の犬における臨床的特徴、治療オプションおよびその結果

 胸腺腫の犬における臨床的特徴、治療オプションおよびその結果についての報告によると、全身腫瘍組織量が多かったり腫瘍随伴症候群の症状がみられる場合でも外科治療後の予後は良好で、外科治療、腫瘍のステージおよび2つめの腫瘍の存在が生存期間に影響を与えたとのことでした。

 具体的には、116頭の犬のうち38%の犬がラブラドールレトリバーとゴールデンレトリバーで、17%の犬で重症筋無力症の症状がみられ、34%の犬で高カルシウム血症がみられ、7%の犬で免疫介在性疾患がみられたそうです。また27%の犬で胸腺腫以外の腫瘍がみられ、14%の犬でその後胸腺腫以外の腫瘍の進行がみられたそうです。そして84頭の犬で腫瘍切除が行われ、14頭の犬で再発がみられたが2度目の手術後の予後は良好だったそうで、生存期間の中央値は手術した場合は635日、しなかった場合は76日だったそうです。さらに胸腺腫と診断された時点でみられる高カルシウム血症、重症筋無力症や巨大食道症、胸腺腫の病理組織学的サブタイプなどは生存期間と関連がなかったそうです。

 胸腺腫は胸腺上皮由来の腫瘍で、胸の前縦隔に発生し犬の腫瘍の中では発生は稀ですが、高齢の雌に比較的多くみられます。また浸潤性が高い傾向にあるので外科的切除が困難な場合が多いですが、腫瘍切除を行った方が生存期間が長いようです。


参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

November 15, 2013, Vol. 243, No. 10, Pages 1448-1454

犬の突発性後天性網膜変性の長期予後

 犬の突発性後天性網膜変性の長期予後についての報告によると、失明や網膜変性に関連した全身兆候は無期限に続き、多食の症状だけは時間の経過とともに増したとのことでした。
 さまざまな原因によって生じる網膜の変性疾患を網膜変性といいます。突発性後天性網膜変性は不可逆的で根本的な原因は不明ですが、肥満した中年齢の犬がなり易いといわれています。症状としては痛みは伴うことはなく、急にそして完全に視覚機能がなくなり、数日あるいは数週間の間で失明が両側で起こります。そして有効な薬物療法もありません。
 猫でも突発性後天性網膜変性はみられますが、猫の場合はタウリン欠乏やニューキノロン系抗生物質の過剰投与などが関与しているといわれています。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
November 15, 2013, Vol. 243, No. 10, Pages 1425-1431

犬における自然発症の糖尿病の治療におけるインスリングラルギン

 犬における自然発症の糖尿病の治療におけるインスリングラルギンについての報告によると、不溶性繊維の高い食事を与えている犬においてインスリングラルギンは、明らかな低血糖を誘発せずピークがみられないインスリンで、初期投与量として0.3U/kg1日2回が推奨されるとのことでした。
 糖尿病は、尿糖を伴う空腹時の高血糖がみられる疾患で、症状としては多尿、多渇、多食や体重減少などがみられます。また糖尿病には1型糖尿病と呼ばれるインスリン依存性糖尿病(IDDM)と、2型糖尿病と呼ばれるインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)があります。犬の場合は大部分が1型糖尿病(IDDM)であるといわれており、これはインスリン分泌が減少しているかもしくは失われている可能性があるため、インスリンの注射による治療が行われます。
 犬のインスリン治療でも、人で使用されているインスリンを用いて治療することがほとんどです。インスリングラルギンは、インスリンのアミノ酸配列を少しだけ変えインスリンと同じ生理作用を持ちながら薬物動態を改善した持効型溶解インスリンアナログ製剤です。しかしインスリン効果時間は人より短いことが多く、1日2回注射が必要となることが多いようです。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
October 15, 2013, Vol. 243, No. 8, Pages 1154-1161

犬の前十字靭帯疾患の治療のための関節外固定術と脛骨高平部骨切り術の比較

 犬の前十字靭帯疾患の治療のための関節外固定術(lateral fabellar suture stabilization(LFS))と脛骨高平部骨切り術(tibial plateau leveling osteotomy(TPLO))の比較についての報告によると、運動学的にもオーナーの満足度からもLFSよりTPLOの方が良い結果だったとのことでした。
 今回はLFSまたはTPLOを行ったそれぞれ40頭の犬で比較したそうですが、手術後1年経過した時点ではどちらのグループもイヌ簡易疼痛調査票(Canine Brief Pain Inventory)、関節可動域および大腿部の太さに有意差はありませんでしたが、歩行時または小走り時の手術を行った後肢の最大垂直力(Peak vertical force)はLFSよりもTPLOを行ったグループのほうが5~11%高く、オーナーの満足度もTPLOのグループは93%だったのに対しLFSのグループは75%だったそうです。
 近年前十字靭帯断裂における外科処置の方法は数多く存在し、討論されています。TPLOによる整復は早期に機能や体重負重を回復させるとされていますが、TPLOには特別な機材やノウハウが必要とされます。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
September 1, 2013, Vol. 243, No. 5, Pages 675-680

パグの色素性角膜炎の特徴、有病率および危険因子

 パグの色素性角膜炎の特徴、有病率および危険因子についての報告によると、パグの色素性角膜炎の有病率は高く、また虹彩低形成と瞳孔膜遺残も多くみられ、遺伝的な根拠があるかもしれないとのことでした。
 色素性角膜炎は、角膜に褐色から黒色に変色した病変がみられ、血管新生を伴う場合もあります。短頭種、とくにパグ、ラサ・アプソ、シー・ズー、ペキニーズなどに多いとされています。原因としては兎眼性角膜症、乾燥性角膜炎などによる慢性角膜刺激によるものとされています。
 今回の報告では82.4%のパグで少なくともどちらか一方の眼に病変がみられたそうなので、ほとんどのパグにみられる病気といっても言い過ぎではないかもしれません。

参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
September 1, 2013, Vol. 243, No. 5, Pages 667-674

犬の扁桃以外の口腔内扁平上皮癌の生存に関連する危険因子

 犬の扁桃以外の口腔内扁平上皮癌の生存に関連する危険因子についての報告によると、腫瘍部位の外科的切除後の予後は良好で、1年後の生存率は外科的治療を行った場合は93.5%でしたが、行わなかった場合は0%だったそうです。また、腫瘍関連の炎症が増加すると死亡するリスクも高くなるとのことでした。
 犬の口腔内の扁平上皮癌は口腔悪性腫瘍の中では2番目に多くみられます。通常高齢犬の歯肉、とくに上顎の吻側に発生しますが、舌や扁桃にみられることもあります。そして発生部位により異なった挙動がみられます。
 歯肉の扁平上皮癌は転移率は比較的低く、外科手術や放射線療法の対象となることが多いです。しかし扁桃の扁平上皮癌は歯肉や舌にみられるものに比べて攻撃性が強く、また転移率も高く、転移によりリンパ節が腫大し頚部が腫れ初めて気がつく場合もあり、外科手術に加えて放射線療法や化学療法を併用してもコントロールが困難とされています。
 
参考文献
Journal of the American Veterinary Medical Association
September 1, 2013, Vol. 243, No. 5, Pages 696-702

犬における尺骨の骨肉腫

 犬における尺骨の骨肉腫についての報告によると、尺骨の骨肉腫は長期の予後は不良ですが他の四肢にできる骨肉腫よりも予後が良く、部分的な尺骨切除は合併症が少なく運動機能も良好で生存期間に悪影響はないとのことでした。しかし組織学的サブタイプとして、末梢血管拡張性または末梢血管拡張混合性骨肉腫は負の予後因子であるとのことでした。

 骨肉腫は犬の骨腫瘍のなかでもっとも多く、大型犬の四肢骨格に多くみられる悪性腫瘍で、体重や体高が大きくなるほど骨肉腫の発症リスクが増加するといわれています。また肺への転移もよくみられます。

 治療としては断脚を行うことがあります。しかし外科療法はあくまで緩和的で、化学療法も行ったほうがよいとされており、外科療法のみの生存期間の中央値は約4ヵ月、外科療法と化学療法を併用した場合は約10ヵ月とされています。今回みられた尺骨の骨肉腫の生存期間の中央値は463日だったそうですが、組織学的サブタイプとして末梢血管拡張性または末梢血管拡張混合性骨肉腫の場合は208日だったそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

July 1, 2013, Vol. 243, No. 1, Pages 96-101

犬の蛋白喪失性腸症の治療におけるクロラムブシル-プレドニゾロンとアザチオプリン-プレドニゾロンのコンビネーションの比較

 犬の蛋白喪失性腸症の治療におけるクロラムブシル-プレドニゾロンとアザチオプリン-プレドニゾロンのコンビネーションの比較についての報告によると、クロラムブシル-プレドニゾロンのコンビネーションで治療した方がアザチオプリン-プレドニゾロンよりも効果的だったとのこで、血清アルブミン濃度や体重の増加が有意に高く、生存期間も長かったそうです。

 蛋白喪失性腸症とは、腸管内への過剰な血漿蛋白の損失によって低蛋白血症を呈する種々の腸疾患で、腸リンパ管拡張症や慢性の炎症性小腸疾患に付随して起こります。症状としては慢性間欠性または持続性の下痢、進行性の体重減少、低アルブミン血症による皮下組織や四肢の浮腫、腹水および胸水などがみられることがあります。

 蛋白喪失性腸症自体に対する特別な薬物療法はありませんが、プレドニゾロンを用いた抗炎症療法が効果的とされており、難治性の症例に対してはアザチオプリンあるいはクロラムブシルのような細胞毒性の免疫抑制剤を加えることが有益であるとされています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

June 15, 2013, Vol. 242, No. 12, Pages 1705-1714

膀胱の移行上皮癌の犬に対するクロラムブシルを用いたメトロノミック治療

 膀胱の移行上皮癌の犬に対するクロラムブシルを用いたメトロノミック治療についての報告によると、クロラムブシルによる治療は十分許容でき、70%の犬で部分寛解または病変不変がみられ、移行上皮癌の治療の選択肢と成り得るとのことでした。

 今回は31頭の事前の治療がうまくいかなかったまたは治療を行わなかった犬に対して治療したそうですが、3%の犬が部分寛解、67%の犬が病変不変、30%の犬が病態進行となったそうです。また、治療を始めてから病気の進行が止まった期間の中央値は119日で、治療を始めてからの生存期間の中央値は221日だったそうです。

 もともと移行上皮癌は化学療法剤に反応しにくいとされており、今回の報告でも部分寛解がみられたのはほんのわずかなようですが、病気の進行を抑制する効果はある程度あるかもしれません。ちなみにメトロノミック治療とは、メトロノームのように一定の期間で継続的に薬の投与を行う治療をいいます。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

June 1, 2013, Vol. 242, No. 11, Pages 1534-1538

犬の収縮期動脈圧の間接的測定における体位の影響

 犬の収縮期動脈圧の間接的測定における体位の影響についての報告によると、ほとんどの犬で横臥位より座位で測定した場合の方が血圧が高く、また横臥位の方が血圧のばらつきが少なかったとのことでした。

 今回の報告では、51頭の犬をドップラー法で評価したそうですが、座位の場合は172.1±33.3 mmHg、横臥位の場合は147.0±24.6 mmHgだったそうです。一般的に160 mmHg以上で高血圧の疑い、継続的に180 mmHg以上であれば高血圧症と診断されます。しかし、犬や猫では高血圧自体が疾患というよりも、腎疾患、副腎機能亢進症や糖尿病などの合併症としてみられることが多いと考えられています。

 犬や猫ではストレスや興奮に関連して血圧が上昇することがあります。また測定方法によって血圧が異なったり、前肢と後肢の間でも軽度の差があるといわれており、正常な動脈圧の範囲はいまだに議論があります。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

June 1, 2013, Vol. 242, No. 11, Pages 1523-1527

太りすぎの犬の前十字靱帯断裂の外科的または非外科的治療の結果

 太りすぎの犬の前十字靱帯断裂の外科的または非外科的治療の結果の報告によると、外科的治療を行ったほうがよい治療結果が得られたが、非外科的治療を行った犬の約3分の2は治療後52週時には改善がみられたとのことでした。

 40頭の片側性の前十字靱帯断裂の犬で評価され、非外科的治療は理学療法、体重の減量、非ステロイド性抗炎症剤の投与を行い、外科的治療はTPLO(tibial plateau leveling osteotomy)を行い、その後非外科的治療と同様の治療を行ったそうです。

 前十字靭帯は、大腿骨に対する脛骨の内転および前方への変位を制限し、膝関節を安定させる機能があります。前十字靭帯が断裂した場合、膝関節が不安定となり体重を全く負重できないなどの症状がみられますが、靱帯が部分断裂した場合や慢性経過を伴う場合は、立ち上がったり座ったりするのが困難になったり、患肢を体の外へ投げ出して座るなどのあまり特異的でない症状しかみられない場合もあります。

 断裂の原因としては靱帯の変性、外傷などがあり、靱帯の変性の原因としては加齢、構造異常、免疫介在性関節炎などが考えられます。そして靭帯に変性がある場合は、通常の運動の繰り返しも靭帯断裂の原因になることがあります。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

May 15, 2013, Vol. 242, No. 10, Pages 1364-1372

犬の舌腫瘍における外科的切除の結果と生存期間に関連する因子

 犬の舌腫瘍における外科的切除の結果と生存期間に関連する因子についての報告によると、以前の研究と同様に舌腫瘍は一般的に悪性で、扁平上皮癌および悪性黒色腫が多く、腫瘍の大きさが生存期間に影響を与えるため、初期段階で腫瘍を同定しはやめの外科的切除が推奨されるとのことでした。

 今回の報告では、1995年から2008年のあいだにみられた97例の舌腫瘍の犬について調査したそうですが、19%の症例で転移がみられ、全体の生存期間の中央値は483日でしたが、扁平上皮癌の場合は216日、悪性黒色腫の場合は241日だったそうです。さらに、診断時の腫瘍の直径が2cm以上の犬の方が2cm以下の犬より生存期間が有意に短かったそうです。

 舌は40~60%切除しても問題ないとされていますが、舌の基部を切断すると摂食や飲水が困難になります。しかし時間の経過とともに食べ物や水を吸い込むことを覚え、補助なしで飲食が可能になるといわれています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

May 15, 2013, Vol. 242, No. 10, Pages 1392-1397

COP(シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾロン)ベースのプロトコルで治療された猫のリンパ腫

 COP(シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾロン)ベースのプロトコルで治療された猫のリンパ腫についての報告によると、COPベースの化学療法の1サイクル後の反応がその後の生存期間を予測するのに役立つとのことで、その他の新たな予後因子は確認できなかったとのことでした。

 今回の報告では、最も一般的な発生部位は消化管(50%)で、最初の1サイクルの化学療法後の反応率は47.4%、全体の無増悪生存期間および全生存期間はそれぞれ65.5日と108日だったそうです。しかし化学療法に反応しなかった猫に対して、反応がみられた猫は有意に生存期間が長く、無増悪生存期間の中央値は31日に対して364日、全生存期間は73日に対して591日だったそうです。

 猫のリンパ腫の予後については発生部位や進行の度合にもよりますが、最初の化学療法に対し反応がみられた場合、比較的長い生存期間が期待できると言えそうです。しかし、化学療法開始前に予後を予想するのは難しそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

April 15, 2013, Vol. 242, No. 8, Pages 1104-1109

 

避妊した雌犬における尿失禁の有病率

 避妊した雌犬における尿失禁の有病率の評価についての報告によると、尿失禁の有病率は5.12%で、卵巣子宮摘出時の年齢に有意差は認められず、15kg以上の雌犬で有病率が高く、15kg以下の雌犬に比べて約7倍尿失禁になりやすいとのことでした。

 避妊した雌犬にみられる失禁はホルモン応答性尿失禁であることが多く、性ホルモンが正常な尿道筋の緊張と粘膜の維持に関係していると考えられています。症状としては通常は正常で随意的に排尿しますが、休息あるいは睡眠時の不随意的尿滴下がみられます。尿失禁は避妊された雌犬の20%以上でみられるとされる文献もありますが、今回の報告では有病率は低かったとのことでした。

 ホルモン応答性尿失禁は去勢された雄犬にも発現することがありますが、去勢や避妊された猫ではほとんどないとされています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

April 1, 2013, Vol. 242, No. 7, Pages 959-962

犬においてトリクロサンを添加した縫合糸を使う影響

 犬における脛骨高平部骨切り術(tibial plateau leveling osteotomy [TPLO] )後の手術部位感染症と炎症に関して、切開閉鎖のためにトリクロサンを添加した縫合糸を使う影響についての報告によると、トリクロサンを添加した縫合糸は臨床使用において付加的な利点はなく、獣医療の整形外科手術において使用は勧められないとのことでした。

 手術などで使用される縫合糸は、犬や猫でも人体用のものを用いることが多いです。トリクロサンは薬用石鹸などにも使用されている殺菌剤で、最近では、このトリクロサンを添加したコーティング剤を糸の周囲に塗布した抗菌効果のある縫合糸があり、人では手術部位感染症のリスクが低減されるといわれています。しかし犬では、トリクロサンを添加した縫合糸と添加していない縫合糸を比較した場合、感染症や炎症の発生率に差はなく、試験管内条件下に比べて生体内条件下の場合、トリクロサンを添加した縫合糸の抗菌性が低下することがあるとのことでした。

 ちなみに、皮膚を閉じるときに通常の縫合糸を使用するよりも、ステープラーを使用したほうが炎症が軽減されたそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

February 1, 2013, Vol. 242, No. 3, Pages 355-358

慢性肝炎とラブラドールレトリバーの肝臓の銅濃度

 慢性肝炎をもっているまたはもっていないラブラドールレトリバーの肝臓の銅濃度についての報告によると、肝臓の銅濃度は健常犬に比べて慢性肝炎の犬のほうが有意に高く、さらに年代とともにかなり増加しており、原因として環境中の銅への暴露の増加、特に食事によるもが考えられるとのことでした。

 今回の報告では、2つの研究期間(1980~1997年と1998~2010年)に得られた肝臓の組織標本をそれぞれ定性的にロダニン染色によって、定量的に原子吸光分析法によって銅濃度を測定したそうです。それによると1980~1997年の間に得られた肝臓の組織標本に比べ、1998~2010年の間に得られた方が肝臓の銅濃度が高いものの割合が多かったそうです。

 銅は肝臓で貯蔵される微量元素の一つで、生体内にはごく微量しか存在しないのですが、非常に多くの代謝反応に関与しており、皮膚および被毛の色、ヘモグロビンの合成などに関係しています。しかし高濃度になると肝毒性となります。一度肝臓に銅の蓄積がが起こると、銅含有量の低い食事を与えても肝臓の細胞から銅を取り除くことはできませんが、銅がさらに蓄積されるのを遅くすることはできます。またレバー、魚介類、内臓肉などは銅含有量が多いとされています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

February 1, 2013, Vol. 242, No. 3, Pages 372-380

 

ラブラドールレトリバーの肝臓の銅および亜鉛濃度と食事中に含まれる銅および亜鉛の関連

 ラブラドールレトリバーの肝臓の銅および亜鉛濃度と食事中に含まれる銅および亜鉛の関連についての報告によると、市販のドライのドックフードに含まれる銅と亜鉛の濃度は、遺伝的な銅蓄積性肝障害をもつラブラドールレトリバーにとって危険因子になるとのことでした。

 銅蓄積性肝障害は、肝臓における銅の異常な蓄積によって肝炎や肝硬変となる疾患です。とくにベドリントン・テリアでの発生が著しく高く、遺伝的に胆汁中へ銅を排泄できないためとされており、羅患率は25%、50%はキャリアともいわれています。また発生機序は異なるとされていますが、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ドーベルマン・ピンシャー、ダルメシアン、ラブラドール・レトリバーなどはこの疾患の好発犬種とされ、遺伝性が強く疑われています。

 今回の報告では、高銅および低亜鉛の食事は高い肝臓の銅濃度と有意に関連していたが、食事の摂取量との関連はみられなかったそうです。また亜鉛には抗酸化作用、肝臓内の銅貯蔵の減少作用、抗線維性の性質などがあるため慢性肝炎などの場合、食事に亜鉛の添加が有益であるとされています。

 

参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 26, Issue 6, pages 1274–1280, November/December 2012

犬と猫の尿結石の組成についてホルマリンで保存した場合の影響

 犬と猫の尿結石の組成についてホルマリンで保存した場合の影響についての報告によると、ミネラル組成分の誤診を避けるため、尿結石は分析前にホルマリンに浸透させるべきではないとのことでした。

 尿石症は犬や猫でときどきみられます。結石は成分によって様々な種類があり、成分によって特徴的な外観もありますが、複数の成分が混合して結石になることもあり、正確な成分の同定には結石の定量分析検査が必要です。またホルマリンは組織検査での固定操作としてよく用いられます。組織をホルマリン液に漬けることにより、生体内では流動状であった物質が固形化し安定した状態に変化するため、生体内に近い状態で組織や細胞を観察することが可能になります。

 しかし、ホルマリンに浸された後のストルバイト結石の一部は、ニューベリーアイトという鉱物へ形質転換がみられ、尿酸アンモニウム結石は溶解することがあるそうです。通常結石の定量分析検査の場合、結石を蒸留水で洗浄後、十分乾燥させることが推奨されています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

December 15, 2012, Vol. 241, No. 12, Pages 1613-1616

犬の2,8-ジヒドロキシアデニン結石

 犬にみられた膀胱の2,8-ジヒドロキシアデニン結石についての報告によると、結石はレントゲン透過性、高エコーで、尿酸結石と誤診されることがあり、アロプリノールの投薬やプリン体制限食が推奨されるとのことでした。

 犬でみられる膀胱結石にもさまざまな種類がありますが、2,8-ジヒドロキシアデニン結石は非常にまれな結石です。人では先天的なプリン体代謝経路の欠損によりみられるようですが、やはりまれな結石のようです。

 尿酸結石は、犬では肝疾患に関連してみられることが多いです。アロプリノールは体内での尿酸の産生を抑制し、人では痛風の治療薬として使用されています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

November 15, 2012, Vol. 241, No. 10, Pages 1348-1352