犬の口腔のメラノーマの根治目的の外科手術後の結果

 犬の口腔のメラノーマの根治目的の外科手術後の結果についての報告によると、広いマージンのある切除を行った後は長い無進行期間と生存期間が得られるとのことでした。

 犬の皮膚のメラノーマは良性であることが多いですが、口腔内のメラノーマはほとんどの場合悪性です。治療として外科手術が行われますが、転移する確率が高いため手術のみで根治するのはまれとされています。好発犬種はプードル、ダックスフンド、スコティッシュテリアおよびゴールデンレトリバーに最も多く認められるとする報告もあります。

 今回の報告では1998~2011年の間に治療した70頭の犬について調査したそうですが、治療後の全体の病気の無進行期間と生存期間の中央値はそれぞれ508日と723日だったそうです。また無進行期間と生存期間と有意な関連があったものとして補助療法、診断時の転移の存在、高い腫瘍ステージ(ステージ3または4)、腫瘍の大きさ(>3cm)および避妊していないメス犬だったそうです。さらに補助療法を行った場合疾患の進行の危険性が130%増加(ハザード比2.3)し、診断時に転移がみられる場合は死亡の危険性が281%増加(ハザード比3.8)したそうです。


参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

December 1, 2014, Vol. 245, No. 11, Pages 1266-1273

ヒドロモルフォン誘発性嘔吐と吐き気を予防するためのマロピタントの投与間隔による有効性

 ヒドロモルフォン誘発性の嘔吐と吐き気を予防するためのマロピタントの投与間隔による有効性についての報告によると、ヒドロモルフォン投与の15分から30分前にマロピタントを投与した場合嘔吐が大幅に減少したが、吐き気の徴候は60分前に投与したときのみ減少したとのことでした。

 ヒドロモルフォンは日本では医薬品として承認されていませんが、海外では長年使用されている麻薬性鎮痛剤で副作用として嘔吐や吐き気がみられることがあります。マロピタントは当初鎮痛消炎を適応症とした人用医薬品を目指して開発されましたが、臨床効果が期待したほどではなかったことから開発中止となったものの、強いNK1受容体拮抗作用があり動物では十分な薬効と安全性があったため改めて開発された制吐剤です。

 今回の報告ではマロピタントを1mg/kg皮下注射した後、0、15、30、45、60分後にヒドロモルフォンをそれぞれ10頭の犬に0.1mg/kg筋肉注射をしたそうです。嘔吐については時間が短くても抑制効果があるようですが吐き気を抑えるには効果がでるまで注射後60分はかかるようです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

November 1, 2014, Vol. 245, No. 9, Pages 1015-1020

上顎、下顎および頭蓋冠の骨肉腫の予後と予後因子

 上顎、下顎および頭蓋冠の骨肉腫の予後と予後因子についての報告によると、組織学的に腫瘍のないマージンのある腫瘍切除を行った場合その他の治療を行うよりも生存期間が長かったとのことでした。

 骨肉腫は四肢骨格でみられることが多いですが、体軸骨格でもみられることがあり骨肉腫全体の約20~25%を占めるともいわれています。四肢骨格の骨肉腫と同様に高齢犬が罹患しやすく、体重が重いほどリスクも増加するとされており、好発犬種は特にありませんが雌犬で多く発症するとされています。また下顎骨にみられる骨肉腫は、他の部位でみられるものより転移率が低く、予後が良いことが多いといわれています。

 今回の報告では上顎、下顎および頭蓋冠にみられた骨肉腫の症例の平均年齢は9.3歳で、平均体重は31.8kgだったそうです。そして最も多かった原発部位は上顎で43.7%だったそうです。局所再発または進行は51.3%の犬で、遠隔転移は38.%の犬でみられたそうです。すべての犬の生存期間の中央値は239日で、外科手術を行った場合は329日だったそうです。そして組織学的に腫瘍のないマージンのある外科切除の場合は危険度が著しく減少し、再発と進行のハザード比は0.4で、死亡のハザード比は0.5だったそうです。しかし頭蓋冠の骨肉腫の場合は有意に危険性が高く、局所再発と進行のハザード比は2.0だったそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

October 15, 2014, Vol. 245, No. 8, Pages 930-938

肝細胞癌を伴うかまたはみられないスコティッシュテリアの進行性空砲性肝障害の臨床的特徴

 肝細胞癌を伴うかまたはみられないスコティッシュテリアの進行性空砲性肝障害の臨床的特徴についての報告によると、スコティッシュテリアの空砲性肝障害は副腎ステロイド産生と関連し、肝細胞癌になりやすい傾向にあり、頻繁な血液検査や超音波検査が早期腫瘍検出のために勧められるとのことでした。

 スコティッシュテリアの空砲性肝障害はステロイド性肝障害に類似するといわれていました。ステロイド性肝障害はグルココルチコイドの投与や自然発生の副腎機能亢進症に続発して認められ、グルココルチコイドは肝臓のグリコーゲン蓄積と肝腫大を引き起こし、肝細胞内に蓄積されたグリコーゲン顆粒が組織学的に細胞質空砲としてみられるようになります。またステロイド性肝障害はほとんどの場合良性の可逆性肝病変を示し、臨床的な肝機能不全とは関連していないとされています。

 今回の報告では34%のスコティッシュテリアの進行性空砲性肝障害の症例で手術時、剖検時または腹部超音波検査時に肝細胞癌が検出されたそうです。組織学的には肝細胞癌の場合は異形成肝細胞巣が先行してみられたそうですが、肝細胞癌を伴う症例とない症例の間で臨床病理学的値や死亡時の年齢に有意差はなかったそうです。また56%の症例は高肝銅濃度がみられ、銅関連性肝障害と一致した組織学的特徴をもっていたそうです。副腎皮質機能亢進症と臨床徴候が一致したのは40%の症例だったそうですが、88%の症例で高プロゲステロン(グルココルチコイドの前駆物質)、80%の症例で高アンドロステンジオン(副腎で生産されるステロイドホルモン)がみられたそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

October 1, 2014, Vol. 245, No. 7, Pages 797-808

直腸腫瘤の犬に対する直腸プルスルー手術後の合併症と結果

 直腸腫瘤の犬に対する直腸プルスルー手術後の合併症と結果についての報告によると、直腸疾患のある犬で直腸プルスルー手術を行った場合合併症の発生率は高かったが、局所の腫瘍制御と生存期間は良好だったとのことでした。

 直腸プルスルー手術は、肛門から直腸を反転させ全層切開し、直腸を肛門から引き抜くような形で切除する手術で、腹腔からアプローチできない遠位結腸や直腸中央の病変、肛門アプローチでは大きすぎたり前方すぎたりする病変部の切除が適応となります。しかし手術後に合併症が起こることも多く、テネスムス(しぶり腹)、血便、失禁、狭窄などが起きることがあります。

 今回の報告では74頭の直腸腫瘤のみられる犬について調査したそうですが、78.4%の犬で手術後の合併症がみられ、最も多くみられたのが便失禁で56.8%の犬でみられ、そのうちの54.8%の犬は永久的なものになったそうです。その他の合併症としては下痢、テネスムス、狭窄、直腸出血、便秘、裂開および感染症がみられたそうです。また直腸腫瘍の再発は10頭の犬でみられたそうです。全体の生存期間の中央値は1150日でしたが、悪性腫瘍だった場合は726日だったそうです。最も一般的な直腸腫瘤は直腸癌と非浸潤直腸癌で、生存期間の中央値はそれぞれ696日と1006日だったそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

September 15, 2014, Vol. 245, No. 6, Pages 684-695

肥大型心筋症およびうっ血性心不全のネコの生存期間におけるピモベンダンの効果

 肥大型心筋症およびうっ血性心不全のネコの生存期間におけるピモベンダンの効果の症例対照研究の報告によると、通常のうっ血性心不全の治療にピモベンダンを加えた方が肥大型心筋症に対して臨床的に有益で、閉塞性肥大型心筋症に対しても有益かもしれないとのことでした。

 肥大型心筋症は左心室自由壁または中隔の異常な肥大が特徴で、左室容積が減少しうっ血性心不全、動脈血栓塞栓症などの合併症がみられることもありますが、無症状の場合も多くみられます。家族性に発症がみられることも多く、メイン・クーンやラグドールなどの猫種では遺伝性があるとされています。また、閉塞性肥大型心筋症は左室流出路が閉塞されるタイプの肥大型心筋症で、全身血圧の低下がみられることがあります。

 今回の報告では、2003年から2013年の間にみられた肥大型心筋症または閉塞性肥大型心筋症でピモベンダンを使用して治療した27例と、使用しないで治療した27例について後ろ向き症例対照研究を行ったそうですが、ピモベンダンを使用しなかった症例の生存期間中央値は103日だったのに対し、ピモベンダンを使用した症例では626日だったそうで、他に有意差の原因となる要因はなかったとのことでした。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

September 1, 2014, Vol. 245, No. 5, Pages 534-539

犬の口腔悪性黒色腫の切除後の全身補助療法の有効性

 犬の口腔悪性黒色腫の切除後の全身補助療法の有効性についての報告によると、犬の口腔悪性黒色腫の場合腫瘍の大きさと年齢は負の予後因子で、腫瘍の外科的完全切除は生存期間を延長させ、外科手術のみで長期生存が可能であるとのことでした。また全身補助療法は生存期間の延長はみられなかったが、それは第二種過誤(偽陰性)だったかもしれないとのことでした。

 犬の黒色腫は皮膚から発生した場合は良性の傾向が強く、口腔などの粘膜皮膚移行部では悪性の傾向が強いとされています。治療としては外科手術が主に行われますが、浸潤性の強い局所増殖と遠隔転移がみられることが多いため、通常は外科手術のみで根治するのは困難です。そのため、放射線治療、化学療法、免疫療法などの補助療法を行うことがあります。

 今回の報告では犬の自然発生した口腔悪性黒色腫のうち、外科手術のみを行った場合と外科手術と補助療法を行った場合の151例について後ろ向き研究を行ったそうですが、全体の生存期間の中央値は346日だったそうです。そして化学療法や免疫療法などの補助療法を行った症例は少数だったそうですが、98例の外科療法を行った後補助療法を行わなかったグループと補助療法を行ったグループの生存期間の中央値はそれぞれ335日と352日で、その差はなかったそうです。また予後因子としては腫瘍の大きさ、犬の年齢、腫瘍切除のマージン(腫瘍内切除、腫瘍辺縁切除または広範囲切除)の3つが関連しているとのことでした。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

August 15, 2014, Vol. 245, No. 4, Pages 401-407

 

小型犬における四肢骨肉腫

 小型犬における四肢骨肉腫についての報告によると、小型犬にみられる骨肉腫は大型犬の場合と比較して腫瘍の組織学的悪性度と有糸分裂指数は低く、化学療法を行わないで患肢の断脚のみを行った場合の生存期間中央値は長いとのことでした。

 骨肉腫は悪性の骨腫瘍で、大型犬種にみられることが多く、10㎏以下の犬と比べると超大型犬種(35㎏以上)は60倍、大型犬種(20~35㎏)は8倍骨肉腫を発生する可能性が高いと言われています。また年齢が高くなるほど、体重や体高が大きくなるほど骨肉腫のリスクが増加するとされています。

 今回の報告では小型犬の骨肉腫は上腕骨と大腿骨に多くみられ、外科手術を行わないで治療した場合、断脚のみを行った場合、そして治癒目的の治療を行った場合の生存期間中央値はそれぞれ112日、257日、415日だったそうですが、断脚のみを行った場合と治癒目的の治療を行った場合とでは有意差はなかったそうです。また断脚のみを行った場合、体重が増加するにつれて生存期間中央値は減少したそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

July 15, 2014, Vol. 245, No. 2, Pages 203-210

グレイハウンドにおける虚血性脳卒中

 グレイハウンドにおける虚血性脳卒中についての報告によると、グレイハウンドは他の犬種に比べて虚血性脳卒中になりやすいことが示唆され、凝固異常は関与しないが高血圧が虚血性脳卒中の進行に関与している可能性があるとのことでした。

 虚血性脳卒中は脳梗塞の一種で、脳内の血管が血栓などによって塞がれることによって起こります。過凝固能亢進状態、過粘稠血症候群、アテローム性動脈硬化症、血管痙縮、局所性血管炎、腫瘍性塞栓などによって起きますが、原因がわからないことが多いです。虚血は犬や猫では前脳や小脳の領域で起こることが多く、前脳病変の場合は発作、旋回運動、認知障害、攻撃性亢進など、小脳病変の場合は運動失調、斜頸、眼振、測定過大などの症状がみられます。

 今回の報告ではグレイハウンドの虚血性脳卒中の有病率は0.66%とのことでしたが、これは他の犬種と比べて有意に高かったそうです。また収縮期動脈血圧の測定が勧められ、抗高血圧治療が妥当であるとのことでした。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

July 1, 2014, Vol. 245, No. 1, Pages 113-117

 

血液ドナー犬の繰り返しの献血による鉄と血液学的変化への影響

 血液ドナー犬の繰り返しの献血による鉄と血液学的変化への影響についての報告によると、献血後すべての血液ドナー犬で骨髄の再生反応が誘発され、10日以内に減少した血球の回復がみられたそうですが、全血液量の13%を2か月毎に献血した犬のグループでは貯蔵鉄の有意な減少がみられたとのことでした。

 犬でも急性の失血や溶血がみられた場合、治療として輸血を行うことがあります。犬にもABO式ではありませんが血液型は存在し、赤血球表面に存在する抗原によって分類されます。また犬では他の赤血球型に対する自然抗体を持たないとされていますが、輸血前にはクロスマッチ試験を行うことが推奨されています。

 今回の報告では全血液量の13%を2か月毎に献血、13%を3か月毎に献血、15%を3か月毎に献血の3グループに分けて1年間調べたそうですが、全血液量の13%を2か月毎に献血したグループは他のグループに比べ血清フェリチン濃度の有意な減少がみられたそうです。フェリチンは貯蔵鉄の量を反映して増減し、鉄不足の場合ヘモグロビンや血清鉄よりもフェリチンから減少がみられるため潜在性鉄欠乏性貧血の指標になっています。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

June 1, 2014, Vol. 244, No. 11, Pages 1298-1303

 

470頭の犬の四肢骨肉腫の断脚後のカルボプラチンとドキソルビシンベースの化学療法プロトコールの比較

 470頭の犬の四肢骨肉腫の断脚後のカルボプラチンとドキソルビシンベースの化学療法プロトコールの比較についての報告によると、どちらのプロトコールも無症候期間や生存期間に有意差はなかったが、カルボプラチンの方が有害事象がみられる割合が低く治療中よい生活の質を維持できる可能性があり、用量強度は予後の指標にはならなかったとのことでした。

 今回は1997年から2012年の間に断脚後化学療法を行った470頭の犬について後向きコホート研究を行ったそうです。それによると全体の無症候期間と生存期間の中央値はそれぞれ291日と284日だったそうです。またカルボプラチンを300mg/㎡ ivで3週間ごとに6回投与するプロトコールが、ドキソルビシン単独やカルボプラチンとドキソルビシンを併用するプロトコールより有害事象の割合が低かったとのことでした。(48.4%に対し60.8~75.8%)

 また、他の研究では化学療法を行った場合小さい犬の方が生存期間が長く、単位体重あたりの薬剤投与量が高用量であったためとするものもありますが、今回の報告ではそのようなことを示唆する証拠はみられず、薬剤投与量の増加は勧められないとのことでした。


参考文献

Journal of Veterinary Internal Medicine

Volume 28, Issue 2, pages 554–563, March/April 2014

犬と猫における孤立性の眼内または結膜のリンパ腫

 犬と猫における孤立性の眼内または結膜のリンパ腫についての報告によると、孤立性の眼のリンパ腫はまれで、ブドウ膜炎や結膜炎との鑑別診断を考慮するべきで、MRI検査、脳脊髄液や周辺リンパ節の細胞検査は有益とされ、予後は結膜リンパ腫の方が眼内リンパ腫よりよさそうだったとのことでした。

 今回は7例の犬と2例の猫の孤立性の眼のリンパ腫について過去の診療記録を再検討したそうです。そのうち眼内リンパ腫(犬4例、猫1例)と結膜リンパ腫(犬3例、猫1例)はリンパ腫と診断された全症例のそれぞれ0.1%と0.08%だったそうです。また眼内リンパ腫はブドウ膜炎がみられた全症例の0.19%、結膜リンパ腫は結膜炎のみられた全症例の0.16%だったそうです。そしてすべての眼内リンパ腫の犬で神経症状がみられ、リンパ節への転移は結膜リンパ腫の2例でみられたそうです。生存期間の中央値は眼のリンパ腫全体としては178日でしたが、結膜リンパ腫の無増悪生存期間は221日、生存期間は549日だったそうです。

 犬の眼に発生する腫瘍で最も多くみられるのはメラノーマで、前部ブドウ膜で発生することが多く、高齢犬で発生しますが若齢犬にみられる場合もあります。原発性もしくは孤立性に眼にリンパ腫が発生するのは非常にまれなようですが、続発性または転移性にみられる眼の腫瘍はリンパ腫が多いとする研究もあります。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

February 15, 2014, Vol. 244, No. 4, Pages 460-470

片側の前十字靭帯断裂の犬においてそれに続く反対側の靭帯断裂の危険因子としてのファットパッドサインの評価

 片側の前十字靭帯断裂の犬においてそれに続く反対側の靭帯断裂の危険因子としてのファットパッドサインの評価についての報告によると、前十字靭帯断裂のすべての犬で両側の膝関節のレントゲン検査を行うべきで、靱帯断裂がみられない側でファットパッドサインがみられた場合は関節鏡検査も考慮するべきであるとのことでした。

 今回は96頭の片側の前十字靭帯断裂の犬と22頭の両側の前十字靭帯断裂の犬について後ろ向き研究を行ったそうです。96頭の片側の前十字靭帯断裂の犬の靱帯断裂していない膝関節の触診は84頭は正常で12頭は異常がみられ、その84頭のうち29頭は靱帯断裂していない膝関節にレントゲン検査でファットパッドサインがみられ、31頭で変形性関節症がみられたそうです。また触診で異常がみられたすべての犬でファットパッドサインと変形性関節症がみられたそうです。そして靱帯断裂していない膝関節のファットパッドサインはその後続いて起こる靱帯断裂の最も重要な危険因子で、靱帯断裂していない膝関節が触診上正常で、その後靱帯断裂が起こるまでの期間の中央値はファットパッドサインがみられる場合は421日、みられない場合は1688日、3年間で靱帯断裂する割合はファットパッドサインがみられる場合が85.3%、みられない場合が24.9%だったそうです。

 ファットパッドサインはレントゲンサインのひとつで、膝関節を横方向から撮影した場合膝蓋下は通常黒い三角形にみえますが、関節内に炎症が起こると関節包の拡張を伴う関節液の貯留と膝蓋下脂肪体の圧迫によりデンシティが上がり白くみえる場合をいいます。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

February 1, 2014, Vol. 244, No. 3, Pages 328-338

輸血を受けた犬における急性肺障害の発生率

  輸血を受けた犬における急性肺障害の発生率についての報告によると、以前報告されていた輸血を受けたことがない病気の犬における急性呼吸窮迫症候群と同じ頻度で急性肺障害がみられたとのことでした。

 急性呼吸窮迫症候群は重篤な呼吸困難を示す非心原性透過型肺水腫のひとつで、その軽症型は急性肺障害と呼ばれ、これらはび漫性の炎症性肺障害によって肺胞-毛細血管の組織間の透過性が増加することにより起こります。炎症性障害は肺炎や肺挫傷などの原発性の肺疾患が誘因となりますが、肺疾患以外の敗血症や膵炎などによる全身性の炎症反応によって、好中球や炎症性サイトカインが活性化され起こることもあり、輸血もその危険因子の一つとされています。

 今回の報告では54頭の犬について前向き観察研究が行われたそうですが、急性肺障害の発生率は3.7%で、以前に報告された急性呼吸窮迫症候群の発生率の10%と比較して有意差はなかったそうです。しかし人における輸血関連急性肺障害の発生率(25%)と比較した場合、その発生率は低かったとのことでした。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

January 15, 2014, Vol. 244, No. 2, Pages 170-174

 

原発性および続発性の肝銅蓄積と推定される猫

 原発性および続発性の肝銅蓄積と推定される猫についての報告によると、銅が原発性や続発性に猫の肝臓に蓄積することが示唆され、その長期管理は可能であったとのことでした。

 今回は、1980年から2013年の間に肝生検と肝銅濃度の測定によって確認された、肝胆道疾患をもつ100匹の猫(原発性銅関連性肝障害と推定される11匹、肝外胆管閉塞14匹、胆管炎、胆管肝炎37匹、その他の肝胆道疾患38匹)と肝胆道疾患のない14匹の猫について、後ろ向き横断研究を行ったそうです。それによると、原発性銅関連性肝障害の猫は一般的に若く(中央値2.0歳)、臨床病理学的特徴は他の肝疾患の猫と同様だったそうです。また肝臓サンプルの銅染色および銅の定量(>700マイクログラム/グラム乾燥重量を基準として)により原発性銅関連性肝障害が確認されたそうです。そして6匹の猫はキレート剤(ペニシラミン)、抗酸化剤、低用量の亜鉛、肝臓療法食および高タンパク低炭水化物の食事などによる治療が奏功したそうです。しかし1匹の猫がペニシラミンの投与により溶血性貧血を呈し(投与の中止により回復)、3匹の肝銅濃度の高い猫は肝細胞腫瘍形成へ発展したそうです。

 肝臓における銅の蓄積は肝の損傷に関連し、肝炎や肝硬変を起こします。銅関連性肝障害は、犬ではベトリントン・テリアの胆管銅排泄における遺伝的な代謝欠損で起こることが知られていますが、猫での報告はほとんどありません。


参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

January 1, 2014, Vol. 244, No. 1, Pages 68-77

犬と猫における濃縮されたティーツリーオイル中毒

 犬と猫における濃縮されたティーツリーオイル中毒についての報告によると、100%ティーツリーオイルの使用は暴露後数時間以内に中枢神経抑制、不全麻痺、運動失調または震戦を引き起こし、その後最長3日症状がみられ、若い猫、とくに体重の軽い個体が重症になるリスクが高いとのことでした。

 今回の報告では100%ティーツリーオイルに暴露された337頭の犬と106匹の猫について後ろ向き調査を行ったそうです。そのうち89%のケースで意図的にティーツリーオイルが使用され、その量は0.1mlから85mlだったそうです。そして暴露経路は50%が皮膚、30%が皮膚と経口、15%が経口からだったそうです。

 ティーツリーは、オーストラリアやニュージーランドに分布しているユーカリと同じフトモモ科の植物で、そこから抽出される精油は抗菌作用と抗真菌作用があり万能薬ともいわれています。しかし100%天然成分であれば安全というわけではなく、また精油は非常に濃縮されている物質であり品質も製品により異なったりしますので、使用には注意が必要です。


参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

January 1, 2014, Vol. 244, No. 1, Pages 95-99

黄疸の犬の総蛋白質量の屈折計による測定

 黄疸の犬の総蛋白質量の屈折計による測定についての報告によると、高ビリルビン血症は屈折計による血清総蛋白質濃度の定量を妨げなかったとのことでした。

 黄疸とは、血清ビリルビン濃度が増加している状態をいいます。ビリルビンは赤血球に含まれるヘモグロビンという成分の分解代謝物で、通常は肝臓へ運ばれ胆汁の成分として胆管内に分泌され、便の中や尿中へ排泄されます。またビリルビンは黄色い色素をしており、尿や便の黄褐色はビリルビンに由来しますが、何らかの原因でビリルビンが排出されなくなると血液中に蓄積され、皮膚や白目が黄色くなってきます。黄疸の原因としては溶血による溶血性黄疸、肝細胞の障害による肝性黄疸、胆汁の流れが障害される肝後性黄疸があります。

 屈折計とは、光に対する物質の屈折率を測定する器械で、測定しようとする物質を屈折率のわかっている物質でつくったプリズムに接触させて、その境界面で起こる反射を利用して測定します。血液では、蛋白質量にしたがって光の屈折が生じ、蛋白質量が多ければ光の屈折量は多くなります。通常血清は透明ですが、黄疸になると黄色くなります。しかし屈折計による蛋白質測定には影響ないようです。


参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

January 1, 2014, Vol. 244, No. 1, Pages 63-67