びらん性免疫介在性多発性関節炎の犬における臨床的特徴および病理学的関節の変化

 びらん性免疫介在性多発性関節炎の犬における臨床的特徴および病理学的関節の変化についての報告によると、びらん性免疫介在性多発性関節炎は中年齢の小型犬の手根関節に最も一般的にみられ、さらなる遺伝子分析およびリンパ球サブセットの解析が必要とされるとのことでした。

 免疫介在性多発性関節炎は炎症性関節疾患として一般的です。周期的な元気消失(発熱)、食欲不振、跛行および知覚過敏がみられます。免疫介在性多発性関節炎は骨および軟骨の溶解および増殖の変化を評価することに基づいて、びらん性または非びらん性のいずれかに分類されます。びらん性は進行性の関節周囲表面の骨溶解と増殖が特徴です。初期は軽度の軟部組織の腫脹と関節滲出液だけがX線検査でみられ、進行するにつれて軟骨膜と軟骨下骨の不透明度の減少、関節腔の狭小化および骨増殖がみられます。犬では敗血症性、リウマチ性関節炎はびらん性に含まれますが、X線検査での変化は特異的ではないのでこれらを鑑別するには関節液の分析や培養を行うことが重要です。非びらん性の炎症は滑膜や軟骨の接合面の顕著もしくは永久的な関節破壊なしに関節痛および軟部組織の腫脹を引き起こします。これはIII型過敏症反応であり、慢性抗原刺激に向けられた抗体産生に起因します。しかしこの抗原刺激の原因を特定することはしばしば困難で、特発性多発性関節炎と呼ばれます。原因としては腫瘍(特に血液腫瘍)、慢性感染症(深部真菌症、脊椎炎または心内膜炎など)、原発性免疫疾患(全身性エリテマトーデス)、特定の薬剤またはワクチンなどがあります。

 今回はびらん性免疫介在性多発性関節炎の犬13例と非びらん性免疫介在性多発性関節炎の犬66例とを比較したそうですが、びらん性免疫介在性多発性関節炎を有する犬の平均年齢は7.1±2.4歳、体重は8.3±3.4kgで、13例すべてで手根関節に病変がみられたそうです。また関節液のリンパ球数が非びらん性の犬よりびらん性の犬の方が有意に多かったそうです。すべての犬がレフルノミド(9例)、プレドニゾン(3例)、プレドニゾン-アザチオプリン(1例)による免疫抑制治療を受けたそうです。

 

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Journal of the American Veterinary Medical Association

November 15, 2016, Vol. 249, No. 10, Pages 1156-1164

末梢性結節性リンパ腫の犬における多剤併用化学療法プロトコールからのプレドニゾンの省略の効果についてのランダム化対照試験

 末梢性結節性リンパ腫の犬における多剤併用化学療法プロトコールからのプレドニゾンの省略の効果についてのランダム化対照試験の報告によると、L-CHOPプロトコールからプレドニゾンの除外をすることでリンパ腫の犬における無増悪生存期間の改善はみられなかったが、今回の試験では群間の無増悪生存期間の臨床的な有意差を検出するには不十分だったとのことでした。

 リンパ腫は犬で最も一般的な癌の一つで、年間発症率はおおよそ10万頭中24頭との報告もあります。大部分の犬のリンパ腫はリンパ節腫大が特徴的な多中心型で、肝臓、脾臓および骨髄も一般的に罹患しています。多剤併用の化学療法が現在の治療のスタンダードで、寛解率は70~90%、生存期間の中央値は9~14か月とされています。しかし化学療法で治療した犬の個々の予後は様々で、他の腫瘍と同様に腫瘍の免疫表現型、病理組織学的グレード、ステージおよびサブステージが関与しているとされています。またプレドニゾンによる先行治療は化学療法を行うにあたって予後がよくないとされていますが、そのことについて詳しく検討した報告はあまりありません。

 今回の報告では治療はL-アスパラギナーゼ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン(L-CHOP)の組み合わせと、プレドニゾンを省略した同一のプロトコール(L-CHO)で行ったそうです。そして今回の研究に参加した40頭の犬をL-CHOP群(18頭)とL-CHO群(22頭)にランダムに割り当て結果を分析したところ、無増悪生存期間の中央値はL-CHO群が142.5日、L-CHOP群が292日(ハザード比1.79;信頼区間0.85~3.75)だったそうです。また重篤な有害事象はL-CHOの治療を受けた犬の間でより一般的だったそうですが、その差は有意ではなかったそうです。

 

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Journal of the American Veterinary Medical Association

November 1, 2016, Vol. 249, No. 9, Pages 1067-1078

ファロー四徴症を有する犬および猫の疫学的、臨床的および心エコー検査の特徴および生存期間

 ファロー四徴症を有する犬および猫の疫学的、臨床的および心エコー検査の特徴および生存期間についての報告によると、若干の例外を除いてほとんどのファロー四徴症の犬と猫は若年成人期に心臓関連死がみられ、ほとんどの症例は診断時に重度の臨床徴候がみられたとのことでした。

 ファロー四徴症は先天的な心奇形の一種で、解剖学的特徴は漏斗部狭窄による右心室流出路閉塞、二次的な右心室肥大、大きな膜様部の心室中隔欠損、および右方変位した大動脈(騎乗大動脈)がみられます。一般的にキースホンドやイングリッシュブルドックでみられ、猫でもみられます。臨床徴候はチアノーゼがみられ、運動時や興奮時には右から左へのシャントが増強され末梢性のチアノーゼが一段とみられやすくなります。ファロー四徴症の自然経過や生存期間は十分に特徴づけられていません。肺の血流が維持され血液の過粘稠性がコントロールできれば数年は生存することもありますが、低酸素症、血液の過粘稠度および不整脈などの複合的な要因のため突然死がみられることも珍しくありません。

 今回の報告で最も一般的な犬種はテリアタイプで、ほとんどは診断時にチアノーゼを含むファロー四徴症の臨床徴候がみられたそうです。肺動脈狭窄は収縮期のドップラー法による圧力勾配(中央値108mmHg [26~255mmHgの範囲])が特徴的で、ほとんどの心室中隔欠損は大きく、心室中隔欠損の直径と大動脈の直径の比の中央値は0.6(0.18~1.15の範囲)だったそうです。心臓関連による死亡の年齢の中央値は23.4か月で、犬と猫で有意差はなかったそうです。ファロー四徴症と診断されてからの生存期間の中央値は心雑音がないまたは低グレードのもの(3.4か月)の方が心雑音が高グレードのもの(16.4か月)より短く、収縮期心雑音がないまたは低~軽度の心雑音がみられることが生存期間が短いことと有意に関連していたそうです。

 

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October 15, 2016, Vol. 249, No. 8, Pages 909-917

ネコヘルペスウイルス-1(FHV-1)に起因する自然発症の眼、呼吸器および皮膚疾患の治療のためのファムシクロビルの経口投与を行った59例

 ネコヘルペスウイルス-1(FHV-1)に起因する自然発症の眼、呼吸器および皮膚疾患の治療のためのファムシクロビルの経口投与を行った59例についての報告によると、ファムシクロビルを規定量で投与するとFHV-1感染の猫の臨床徴候が改善され、副作用もほとんどないが、投与量や投与回数による効果への影響や治療期間が短縮できるかどうか評価するにはさらなる研究が必要であるとのことでした。

 抗ウイルス薬による全身性の治療は、FHV-1感染の治療において有効であるとされています。アシクロビル、バラシクロビル、リバビリンなどいくつかの薬物が研究されていますが、これらは効果がないか、もしくは猫に毒性があります。ペンシクロビルは、FHV-1感染に対して優れた活性がありますが、経口投与では十分に吸収されないことがわかっています。しかし、ペンシクロビルのプロドラッグであるファムシクロビルは、腸および肝臓で脱アセチル化されて活性化合物に変換されペンシクロビルとなり、一旦吸収されると段階的に三リン酸阻害ウイルスDNAポリメラーゼに変換されてウイルス複製を阻害します。薬用量は猫1頭当たり62.5mgのファムシクロビルの経口投与では血中濃度が有効でなく、125mg以上の高用量(8〜12時間毎)を推奨する研究もありますが、事例が少なく確立された投与のプロトコールはありません。

 今回の報告は2006年から2013年にかけてFHV-1感染が疑われた猫を追跡調査し、ファムシクロビルの低用量(約40mg/kg)と高用量(約90mg/kg)経口投与1日3回を比較したそうです。猫の年齢は0.03~16歳の範囲で、症状は結膜炎(51例[86%])、角膜炎(51例[86%])、眼瞼炎(19例[32%])、鼻汁またはくしゃみ(10例[17%])、皮膚炎(4例[7%])がみられたそうです。臨床的改善は主観的に分類され著しく改善したのが30例(51%)、軽度が20例(34%)、改善がみられなかったのが9例(15%)で、改善するまでの期間や改善の度合は低用量投与群よりも高用量投与群の方がよかったそうです。ファムシクロビル投与に起因する可能性のある副作用は10例の猫で報告されました。ほとんどの飼い主(29/32例[91%])は治療に関して満足だったそうです。

 

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September 1, 2016, Vol. 249, No. 5, Pages 526-538

来院前に猫にトラゾドン塩酸塩の単回投与をすることによる移動と診察への不安の軽減効果

 来院前に猫にトラゾドン塩酸塩の単回投与をすることによる移動と診察への不安の軽減効果についての報告によると、来院前にトラゾドンを単回経口投与することでプラセボ群よりも移動および診察による不安の徴候が少なくなり、ほとんどのネコで許容できるもので有益であるとのことでした。

 トラゾドンは抗うつ薬で、犬では行動障害の補助的治療、とくに不安や恐怖に関連したものに対して使用されることがあります。作用は主に中枢神経におけるセロトニン活性を増強するセロトニン2Aの拮抗剤または再取り込み阻害剤として働き、またセロトニン受容体の5-HT2受容体に拮抗し、そのダウンレギュレーションを引き起こします。猫での使用例はあまりありません。

 今回は移動や診察に不安のある10匹の飼い猫(年齢2~12歳)に対して行い、最初に各猫にトラゾドン50mgまたはプラセボの経口投与を無作為に割り当てて行い、それぞれの猫をキャリアに入れ車で病院へ移動し診察を受けたそうです。オーナーは猫の診察の前、診察中および診察後の不安の徴候を記録し、獣医師は診察中の不安の徴候を記録したそうです。そして1~3週間後にトラゾドン投与群とプラセボ投与群を入れ替えて同様のプロトコールを行ったそうです。結果はトラゾドンを投与した方が移動中の不安の徴候が有意に改善され、診察中もハンドリングが容易になったそうです。また心拍数や他の生理学的値に有意差はみられなかったそうです。トラゾドン投与に関連した最も一般的な有害事象は眠気だったそうです。

 

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July 15, 2016, Vol. 249, No. 2, Pages 202-207

咳のみられる犬の喉頭の構造と機能

 咳のみられる犬の喉頭の構造と機能についての報告によると、咳単独の症状の犬で検査した138例中26例(19%)が喉頭機能障害をもっており、咳のある犬の診断として完全な喉頭鏡検査を含むべきであるとのことでした。

 典型的な咳反射は、最初にみられる深呼吸が特徴で、続いて閉塞した声門に対する急速かつ強力な呼気と、声門が開き、鼻咽頭の閉鎖、口からの強制的な呼気、それに伴う典型的な発声声帯の振動に起因する発声がみられます。喉頭、気管、または気管支に局在する咳受容器の刺激によって咳は誘発されますが、小気管支、細気管支および肺胞の刺激は咳を誘発しません。咳と同様の第2の重要な防御機構は、呼気反射で、これは声帯や気管の刺激によって引き起こされ、閉塞した声門に強制的に呼気がかかり、深い呼吸が先にみられません。真の咳は肺に空気を引き込み、その後の排泄の力を増大させ、粘液および異物の気管および気管支からのクリアランスを促進させます。逆に、喉頭からの呼気反射は有害物質の気道への侵入を防ぎます。したがって、咳反射は気管支疾患などの下部気道疾患が示唆され、呼気反射は一般的には上部気道刺激が示唆されます。

 今回の報告は、2001年7月から2014年10月までの間に咳の症状のある犬に1人の臨床医が喉頭鏡検査と気管支鏡検査を行い、喉頭の充血と腫脹がみられた場合ドキサプラム刺激の前後で喉頭機能を評価し、咳の持続期間(急性[2週間未満]、亜急性[2週間~2か月]、慢性[2か月以上])と疾患の診断をもとに比較したそうです。結果として咳が慢性または亜急性にみられた犬の134例中73例(54%)に喉頭充血がみられ、その有病率は疾患による違いはみられなかったそうです。13例の犬で喉頭片麻痺がみられ、13例の犬で喉頭麻痺がみられ、そのうち2例で発声障害、1例で喘鳴がみられたそうですがこれらの犬に一般的な症状ではなかったそうです。喉頭機能障害(麻痺または片麻痺)の有病率は疾患の間で有意差はなかったそうです。

 

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July 15, 2016, Vol. 249, No. 2, Pages 195-201

偶然発見された脾臓結節または腫瘤に対し脾臓摘出術を行った犬の悪性腫瘍の発生率と予後

 偶然発見された脾臓結節または腫瘤に対し脾臓摘出術を行った犬の悪性腫瘍の発生率と予後についての報告によると、腹腔内出血がなく破裂していない脾臓腫瘤または結節は一般的に良性で、迅速な処置を行った偶然発見された良性または悪性の脾臓病変は以前に報告されたものより平均余命が良いことが示唆されたとのことでした。

 脾臓の腫瘤は良性または悪性腫瘍および非腫瘍性疾患のいずれの可能性もあります。病理学的には犬では脾臓腫瘤のおよそ2/3が腫瘍と診断され、そのうち1/2から2/3が血管肉腫と診断されていますが、腫瘍性と非腫瘍性疾患の有病率は研究によって異なります。臨床徴候は脾臓破裂を起こして出血している場合を除いて非常にあいまいであることが多いです。最も信頼できる臨床徴候は触知可能な脾腫ですが、犬種によっては触診しづらかったり、またすべての脾腫が異常であるとは限りません。

 今回の報告では105例中74例(70.5%)が良性で、31例(29.5%)は悪性腫瘍で最も一般的だったのは血管肉腫(31例中18例(58%))だったそうです。術前にPCVの上昇がみられた場合は死亡リスクが減少し、病理組織学的に悪性の場合は死亡リスクの上昇と有意に関連があったそうです。平均余命は良性と悪性でそれぞれ436日と110日だったそうです。血管肉腫の場合の平均余命は132日で、18例中7例の犬だけが化学療法を行ったそうです。

 

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June 1, 2016, Vol. 248, No. 11, Pages 1267-1273

シカゴにある3つのシェルターでみられたH3N2犬インフルエンザウイルスに感染した犬の間欠的なウイルス排泄の16例

 シカゴにある3つのシェルターでみられたH3N2犬インフルエンザウイルスに感染した犬の間欠的なウイルス排泄の16例についての報告によると、H3N2に感染した犬は発症後21日以上隔離するべきで、臨床徴候の消失が21日より早くみられた場合でもウイルスの排泄は続いている可能性があるとのことでした。

 犬インフルエンザウイルスは2004年にフロリダで犬の呼吸器疾患の要因として同定されました。このウイルスは犬に感染する能力を獲得したH3N8馬インフルエンザウイルスの遺伝的変異と考えられており、犬から犬へ感染する能力があります。アジアでみられるH3N2ウイルスは犬から犬へ感染する能力を獲得した鳥類株に由来しています。臨床徴候がみられるのは感染後2~3日後、ウイルスの排泄のピークは3~4日後とされていますが、H3N2ウイルスは最大24日後までウイルスの排泄が確認されています。犬は急性感染から回復後数週間は咳を続けることがあります。犬インフルエンザウイルス感染自体は過去に著しい死亡率はみられていませんが、肺の正常な防御機能の低下により二次的な細菌性肺炎になることがあります。日本ではこれらのウイルスの犬への感染の報告はまだありません。

 H3N8ウイルス感染の場合は7日間の隔離期間が推奨されていましたが、今回の報告ではH3N2ウイルスに自然感染した犬からのウイルス排泄の期間がより長いことが示唆され、21日以上の隔離が感染の危険性を減らすために推奨されるとのことでした。

 

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Journal of the American Veterinary Medical Association

May 1, 2016, Vol. 248, No. 9, Pages 1022-1026

シーズーの肝皮症候群の31例

 シーズーの肝皮症候群の31例についての報告によると、肝皮症候群はシーズーにおいて遺伝的要因を有する可能性があることが示唆されたが、罹患した家族がいなくても発症することがあり、臨床的、臨床病理学的、超音波検査および組織学的異常は他の犬で報告されている肝皮症候群と同様であったとのことでした。

 肝皮症候群は表在性壊死性皮膚炎で、あまり多くみられる疾患ではありませんが代謝疾患から二次的におこる非常に特徴的な肝障害がみられます。一般的に高齢の小型犬にみられますが、ゴールデンレトリバーやボーダーコリーを含む様々な犬種で報告されています。皮膚に病変がみられ典型的には角化亢進、紅斑、および肉球、鼻、目周囲、肛門周囲、生殖器周囲の痂皮で、病変はしばしば亀裂を生じ二次感染を起こし痛みが生じます。25~40%の症例で糖尿病の徴候がみられることがあり、またフェノバルビタール治療に伴い発症することもあります。表在性壊死性皮膚炎はほとんどの犬で予後不良です。

 今回の報告では、オスは16例、メスは15例で、診断時の年齢の中央値は8歳(5~14歳の範囲)だったそうです。一般的な臨床徴候は嗜眠、食欲不振、体重減少および跛行で、25例の犬は肝皮症候群と一致する皮膚病変がみられましたが、残りの6例は最初は肝臓の異常のみがみられ、そのうちの3例はその後皮膚病変があらわれたそうです。臨床病理学的異常としては小赤血球症(63%の犬)、高血清ALP(100%の犬)がみられ、肝超音波所見は無数の低エコーの結節を伴う実質と高エコーまたは不均一なエコーレベルの外観がみられ、組織学的には最小限の線維化から非線維性、非炎症性、増殖性結節に関連した空砲変性(グリコーゲンおよび脂肪)がみられたそうです。家系分析では18例中12例の犬で共通祖先が確認されたそうです。また生存期間の中央値は3か月(1~36か月の範囲)だったそうです。

 

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Journal of the American Veterinary Medical Association

April 1, 2016, Vol. 248, No. 7, Pages 802-813

犬の原発性脾臓捻転の102例

 犬の原発性脾臓捻転の102例についての報告によると、脾臓捻転のために脾臓摘出術を受けた犬の予後は良好であることが示唆され、既存の敗血症性腹膜炎、術中出血、術後の呼吸困難などが死亡の危険因子として確認されたとのことでした。

 脾臓捻転は、脾臓うっ血の原因となります。これは通常、大型の深い胸の犬、特にジャーマンシェパードとグレートデンで多くみられます。1つの研究では症例の79%をオスが占めていたそうです。急性捻転はショックと腹部不快感を伴う深刻な全身徴候を引き起こしますが、慢性捻転は嘔吐、食欲不振、嗜眠、黄疸などの曖昧な兆候しかみられないことがあります。これらの患者では支持療法を直ちに実施し、適切に治療すれば予後は良好です。

 今回の報告では91.2%の犬が退院後も生存し、症例の23.5%がジャーマンシェパード、14.7%がグレートデン、11.8%がイングリッシュブルドッグで、全体の50%を占めたそうです。死亡に関連した危険因子は、初期検査時の敗血症性腹膜炎(オッズ比32.4)、術中出血(オッズ比22.6)、術後の呼吸困難の進行(オッズ比35.7)だったそうです。またいずれの症例においても脾臓腫瘍の病理組織学的所見はみられなかったそうです。

 

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March 15, 2016, Vol. 248, No. 6, Pages 661-668

椎間板ヘルニア後の後肢の痛覚喪失を伴う犬における対麻痺からの回復に関連する因子

 椎間板ヘルニア後の後肢の痛覚喪失を伴う犬における対麻痺からの回復に関連する因子についての報告によると、椎間板ヘルニアを有する犬において外科的処置の即時性は結果と明白な関連はなく、回復の予後は引き起こした障害の詳細な性質によって強く影響される可能性があるとのことでした。

 椎間板ヘルニアの外科的処置を行う場合、疾患初期の実施が最も効果的で実施するまでの時間と機能回復の結果が相関することが多いとされてきました。長期にわたって脊髄に圧迫や炎症が続いていれば、脊髄は不可逆的変性変化を受けるとされています。また24時間以上にわたる深部痛覚の消失は正常機能の回復についての予後が不良であるとされています。

 今回の報告では後肢と尾の深部痛覚の完全な喪失のみられた犬に脊髄減圧手術を行い、それぞれの犬について対麻痺がみられる前の臨床徴候の期間、対麻痺がみられてから診断されるまでの期間、運動回復までの期間、死亡までの期間(3か月の追跡期間)、および手術前にステロイド薬を投与されたかを調べたそうです。また病変中心部における脊髄圧迫の重症度をCTまたはMRIで測定したそうです。その結果78頭中45頭(58%)の犬で脊髄減圧手術後3か月以内に自力歩行ができるまで回復したそうです。そして調査したどの要因も予後との関連はみられず、重要な点として対麻痺の発症と診断されるまでの期間の大きな遅延は予後不良と関連していなかったそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

February 15, 2016, Vol. 248, No. 4, Pages 386-394

犬における黒クルミの木材、実および殻の摂取に関連する臨床徴候

 犬における黒クルミの木材、実および殻の摂取に関連する臨床徴候についての報告によると、黒クルミの木材の摂取は神経的または筋骨格的徴候が最も頻繁に報告され、実や殻の摂取は嘔吐が一般的な徴候で、著者の知る限りでは今回が黒クルミ成分の暴露による2つの異なる臨床症候群を述べた最初の報告であるとのことでした。

 黒クルミの木は家具などの木材に使用され、実は人用に食用やサプリメントとして利用されています。しかし一般的にナッツ類は犬には与えない方がよく、マカダミアナッツは虚弱、沈鬱、嘔吐、震えおよび高熱を引き起こす可能性があり、徴候は通常摂取後12時間以内にあらわれ12~48時間続くことがあります。またアーモンド、ピーカン、クルミなどは油脂を大量に含んでおり、脂肪は嘔吐や下痢を引き起こし潜在的に膵炎の原因になる可能性があります。

 今回は木材への暴露がみられた28件と、実や殻への暴露がみられた65件があったそうですが、嘔吐は木材を摂取した46%、実を摂取した48%の犬にみられたそうです。しかし神経的または筋骨格的徴候は木材を摂取した93%の犬にみられ、実または殻を摂取した場合の23%よりも有意に多く、木材の摂取後の神経学的徴候を発症する相対リスクは実または殻の摂取後の場合の約4倍だったそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

January 15, 2016, Vol. 248, No. 2, Pages 195-200

犬における脾臓脂肪肉腫の13例

 犬における脾臓脂肪肉腫の13例についての報告によると、脾臓腫瘤のある犬で脾臓脂肪肉腫を鑑別診断として考えるのはまれで、生存期間は手術前の臨床ステージと組織学的グレードに影響されたとのことでした。

 脂肪肉腫は軟部組織肉腫のうちの一つで脂肪細胞から発生する悪性腫瘍です。皮膚が最も一般的な発生部位で、多くは単発性で硬く極めて浸潤性が強く境界不明瞭であることが多いといわれています。脂肪肉腫自体発生がまれな腫瘍ですが、10歳以上の犬に多く、肺や肝臓に転移することもあり、四肢と内臓にみられる場合は予後不良であるという意見もあります。

 今回は13例の脾臓脂肪肉腫の症例について調査したそうですが、生存期間の中央値は623日(1~1283日の範囲)で、脾臓脂肪肉腫によって死亡した5例については42~369日の範囲だったそうです。手術時に転移がみられるのは負の予後因子で、転移がみられる犬の生存期間の中央値が45日だったのに対し、転移がみられない犬は767日だったそうです。また組織学的グレード1の脾臓脂肪肉腫はグレード2および3の生存期間の中央値(それぞれ206日、74日)より著しく長い生存期間の中央値(1009日)がみられたそうです。

 

参考文献

Journal of the American Veterinary Medical Association

December 15, 2015, Vol. 247, No. 12, Pages 1404-1407